日銀の政策に限界が見えてきた…(黒田東彦・日銀総裁)
日銀の政策に限界が見えてきた…(黒田東彦・日銀総裁)

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日銀量的緩和の「物理的限界」が資産バブル崩壊を招く

エコノミスト編集部

 日銀が異次元金融緩和で長期国債の大量買い入れを始めてから4年半を迎える。だがインフレ目標2%は遠い。日銀の政策も限界が近づいた。週刊エコノミスト9月19日号の巻頭特集「異次元緩和の賞味期限」よりダイジェストでお届けする。

見えない緩和縮小が始まっている

 日銀は7月20日、物価目標2%達成時期を2019年度中に延期した。13年4月に年間80兆円の国債買い入れを柱とした異次元緩和を始め、黒田東彦総裁が「2年で2%達成」を掲げて以来、延期は6回目。18年4月に任期満了を迎える黒田総裁は再任されない限り、任期中の2%達成は不可能となった。

 量的緩和で日銀が買い入れた国債は日本の国内総生産(GDP)に迫る約435兆円(8月末時点)にのぼる。日銀の8月末時点の資金供給量(マネタリーベース)は過去最高の469兆1626億円に達した。

 日銀は16年9月、指し値で国債を買う「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」(イールドカーブ・コントロール)と物価が安定的に2%を超えるまでマネタリーベースの拡大を続ける「オーバーシュート型コミットメント」を導入した。長短金利もほぼゼロ%に抑えられており、結果的に国債買い入れは年60兆円程度に減った。市場の一部では国債買い入れ額の減少を「日銀事務方によるステルステーパリング(見えない緩和縮小)」と見る向きもある。

円安の効果は期待したほどではなかった
円安の効果は期待したほどではなかった

 現在のペースで買い入れても、18年中に日銀の国債保有額は発行額の過半となる。19年度中に物価2%を達成できなければ、市中に残存する国債は名目で4割を切る。実際には、生命保険など長期運用が必要な機関投資家が国債を保持し続けるため、日銀が買える国債はさらに減る。木内登英・元日銀審議委員は「年60兆円のペースでも、18年中に限界を迎える」と警鐘を鳴らす。

円安による波及効果は期待ほど大きくない

 量的緩和の物理的限界は、これまでの日銀の政策効果の持続性を著しく低下させている。その最たるものが円安だ。

 リーマン・ショックで金融機関の破綻が相次いだ米国は、金融システムを守るため、FRB(米連邦準備制度理事会)が金融機関の間の流動性を高める手段として量的緩和を実施した。ドルは急落し、円高が進行し、日本の輸出企業、特に大手電機は軒並み巨額の赤字に陥った。

 FRBの量的緩和に、日銀の量的緩和で対抗し、円高の流れを逆転させる。日銀は政策目的としての通貨安誘導を決して認めることはないが、結果的に1ドル=100円割れの円高を現在の水準に戻したのは量的緩和の効果が大きい。為替差益で輸出企業を中心に過去最高益が相次ぎ、景況感も改善した。

 量的緩和の真の目的は、中国との競争力回復との見方もある。日銀の量的緩和後、「ドルベースで見た場合の中国都市部と日本の単位労働コスト(ULC)は逆転した」(星野卓也・第一生命経済研究所副主任エコノミスト)。13年以降、中国は経済成長に伴う賃金上昇が、円安によってさらに大きくなった。日本は逆に、経済停滞で賃金が伸びにくい中、円安によって更にドル建ての賃金は下落した。

 ただ、競争力が高まったはずの日本企業は海外輸出価格をあまり値下げせず、輸出数量は伸び悩む。「円安による日本への波及効果は期待したほど大きくなかった」(星野氏)

 問題なのは、巨額の国債買い入れと、想定を下回る効果が見合わないことだ。日銀のもくろみでは、量的緩和で円安による物価上昇、企業業績改善に伴う賃上げから物価上昇の好循環が起きるはずだったが、そうはならなかった。

GDPに迫る国債を日銀が買う異常さ(国会答弁に立つ黒田日銀総裁)
GDPに迫る国債を日銀が買う異常さ(国会答弁に立つ黒田日銀総裁)

 今後、国債買い入れが減れば、量的緩和効果は対ドルで弱くならざるを得ない。この先、米国が景気後退局面を迎え、FRBが一転、利下げに動いたとき、巨額の国債購入ができない日銀の量的緩和は、円高をどこまで抑止できるのか。

80年代バブルも日銀が地価高騰を放置した

 日銀の量的緩和継続は、資産バブルを日銀自ら膨らませる。すでに土地価格は都心の一部とはいえ、1980年代のバブル期を超えるものも現れた。地価上昇を支えているのが、日銀の量的緩和による過剰流動性とゼロ金利であるのは間違いない。

 リフレ派は資産価格上昇に伴う企業の設備投資増を期待したが、これも実現していない。現実には投機的な資産投資を増やしており、日銀が物価2%達成まで量的緩和を続けるならば、自らバブルを膨らませる役割を果たすことになる。

 80年代のバブル期、日銀は物価上昇率の安定を理由に、引き締めに動かず、土地の急騰を放任した。大蔵省(当時)が不動産業界への融資額の総量規制を行い、地価沈静を図ると、89年末に就任した三重野康総裁が利上げを実施。急激なバブル崩壊を招いた経緯がある。

 今回、自らが醸成している資産バブルの芽を、またも物価目標を理由に放任すると、量的緩和が限界を迎える。さりとて利上げもできないままで軟着陸させることができるのか。政策余地は極めて限られる。

    ◇    ◇

 この記事は、週刊エコノミスト9月19日号の特集「異次元緩和の賞味期限」をウェブ用に編集したものです。連載「週刊エコノミスト・トップストーリー」は原則、毎週水曜日に掲載します。

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藤枝克治編集長率いる経済分野を中心として取材、編集するチーム。経済だけでなく社会、外交も含め幅広く取材する記者の集団であり、各界の専門家にコラムや情報提供を依頼する編集者の集団でもある。

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