思い邪なし

思い邪なし9 平成の“経営の神様”(一)

北康利 / 作家

序章 はじめにまず“思い”ありき

平成の“経営の神様”(一)

 「京都セラミック」という旧社名からも分かるように、京セラはセラミック部品を主力商品として創業した。

 当初は「焼物と同じようなものだろう」という世間の無理解によって不当に低い評価を受けていた時期もあったが、テレビや半導体など、その時代ごとの最先端の市場の発展を影から支える役割を果たしながら、急速な技術進化を遂げていく。

 彼が創業時、ライバル会社に追いつき追い越すため念頭に置いたのは、

 「マラソンと思わず、ずっと百メートルダッシュで走る以外ない」

 というものであった。

 発注元はこれでもかと単価下げの要求を出してくる。しかし彼は客のどんな理不尽な要求にも耐えた。

 「あいつの会社にはかなわん。何時になっても電気がついとる」

 後に稲盛の兄貴分となったワコール創業者の塚本幸一も脱帽するほどの猛烈な働きぶりで、顧客からのどんな依頼でも受けて立つ会社として知られていく。

 「燃える闘魂」「ど真剣に生きろ」など、意図的に粗野で刺激的な表現を繰り出しながら社員たちの魂を揺り動かし、熱く燃えさせた。

 「これでは京都セラミックやなくて“狂徒”セラミックやないか」

 などという中傷には耳を貸さず、

 「これから“新石器時代”が到来する!」

 稲盛はそう豪語したが、その予言は見事実現していく。

 半導体は防護しないと実に脆(もろ)い。周囲の電子回路との接続も必要だ。そのような半導体を入れる材料としてセラミックがうってつけだとわかり、このセラミック「ICパッケージ」が京セラの主力商品となっていった。

最初に開発したセラミックICパッケージ
最初に開発したセラミックICパッケージ

 半導体は産業の米と呼ばれ、どんな電子機器にも入っている。そのため京セラのICパッケージがどんな電子機器にも入っているという時代がやってくる。

 目立たないが必要不可欠。そんないぶし銀のような存在感を持っているのが京セラの商品である。

 やがて様々な応用が行われ、深海の超高圧の世界や宇宙の過酷な条件でも、選ばれるのは京セラのファインセラミックスという評価を確立していくのだ。

 加えて京セラが厳しい環境を生き残っている理由の一つに、稲盛が絶えず新たな挑戦を続けてきた点が挙げられる。

 京セラにとってセラミックは今もなお事業の核であるが、そこに安住しなかった。

 その結果、携帯電話や複写機などを包含する総合メーカーと呼んでいい商品ラインアップをそろえていくことになる。

 通信自由化に際しては、現在のKDDIの前身である第二電電(DDI)を設立し、電気通信事業にも進出した。

 <京セラを創業した稲盛和夫名誉会長の半生記「思い邪(よこしま)なし」を、作家の北康利さんの執筆でお届けします。毎日新聞経済面との連動企画です。次回は10月18日に掲載します>

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北康利

北康利

作家

1960年生まれ。東大法学部卒業後、富士銀行(現・みずほ銀行)入行。富士証券投資戦略部長、みずほ証券財務開発部長などを経て、2008年みずほ証券を退職し、本格的に作家活動に入る。著書に「白洲次郎 占領を背負った男」、「吉田茂 ポピュリズムに背を向けて」など。

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