思い邪なし

思い邪なし15 祖父七郎と父畩市(一)

北康利・作家
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祖父七郎と父畩市(一)

 稲盛和夫は昭和七年(一九三二年)一月二十一日、鹿児島市薬師町(現城西一丁目)に、父畩市(けさいち)、母キミの次男として生まれた。

 鹿児島市の人口は近隣町村との合併もあって現在約六十万人だが、和夫の幼い頃は十八万人ほど。薬師町周辺にも、のどかな田園風景が広がっていた。

 彼の生まれた昭和七年は、軍部の力が急速に伸長していた時期にあたり、満州国が建国され、血盟団事件や五・一五事件が起きるなど、世情騒然としていた。

 だが物資不足などなく暗い雰囲気はない。むしろ日清・日露の二度の対外戦争に勝利し、世界の一流国への道を駆け上っていく高揚感に包まれていた。このわずか十数年後、空襲に逃げ惑ったり、若者が命を散らす特攻隊が飛び立つ事態になろうとは、誰も想像すらしていなかった。

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北康利

作家

1960年生まれ。東大法学部卒業後、富士銀行(現・みずほ銀行)入行。富士証券投資戦略部長、みずほ証券財務開発部長などを経て、2008年みずほ証券を退職し、本格的に作家活動に入る。著書に「白洲次郎 占領を背負った男」、「吉田茂 ポピュリズムに背を向けて」など。