切ない歌を探して

むなしさとはかなさが入りまじるタンゴの名曲「忘却」

森村潘・ジャーナリスト
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アルバム「ミルバ/エル・タンゴ~ミルバ・ウィズ・ピアソラ」(キングレコード)=筆者撮影
アルバム「ミルバ/エル・タンゴ~ミルバ・ウィズ・ピアソラ」(キングレコード)=筆者撮影

 「忘却とは忘れ去ることなり。忘れえずして忘却を誓う心の悲しさよ」。その昔NHKのラジオドラマ「君の名は」(1952~54年)で繰り返された、有名なナレーションの一節だ。

 「忘却=忘れ去ること」は、歌のテーマとして、また象徴的な歌詞としてよく使われる。いつまでも覚えているよとポジティブに使う「忘却」もあれば、「忘れたくても、忘れられない」という、切ない思いの吐露もある。後者の方が多数だろう。

 「もう、忘れてしまおう」、「忘れるしかない」という、諦めに似た気持ちを表した忘却の歌もある。アルゼンチンの作曲家、アストル・ピアソラ(21~92年)の名曲のひとつ「忘却」は、そんな世界をイメージしている。

 タンゴをはじめ数多くの名曲を残し、タンゴの楽器、バンドネオンの演奏家でもあるピアソラは、映画に曲を提供している。「忘却」は「エンリコ4世」という84年のイタリア映画のテーマ曲だ。落馬したのがきっかけで自分を中世のドイツ皇帝エンリコ4世と思い込んでしまった男の悲・喜劇を描いている。 

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森村潘

ジャーナリスト

大手新聞、雑誌編集などを経てコミュニティー紙の編集などに携わる。ジャンルを超えて音楽を研究、アメリカ文化にも詳しい。