スキル・キャリア職場のトラブルどう防ぐ?

29歳ネイリストが業務委託で直面した厳しい現実

井寄奈美 / 特定社会保険労務士

 A美さん(29)はネイリストとして働く女性です。高校卒業後、事務職をしていましたが、ネイルに興味を持ち夜間スクールに通って技術を学びました。その後スクールで紹介されたネイルサロンに3年ほど勤務しましたが、年中無休の商業ビル内の店舗で勤務時間が長く、休みが取りづらいのが不満でした。

 A美さんは独立も視野に入れて転職先を探していたときに、美容師の知人から声をかけられ美容院内に新たに設置するネイルサロンを任されることになりました。しかし、ここで働き方について迷ってしまうことになりました。

アルバイト契約で働き始めるが……

 美容院では当初アルバイト契約で営業時間(午前11時から午後10時)のうち、午後1時から午後9時まで週5日勤務することになりました。1時間の休憩があり、時給1300円です。ネイルの予約があればネイルの仕事をし、予約がないときは美容院のアシスタント業務をするというものでした。

 最初はネイルのお客はわずかでしたが、前の店の客が来店することもあり、数カ月たつとリピーターも増えてきました。ネイルの客単価は平均8000円で、1人の客にかかる時間は1~2時間です。1日3人を担当すればネイル部門の売り上げは約2万4000円でした。しかしA美さんの1日分の給料は9100円でした。

 ネイルの仕事以外はアシスタント業務をしていることを考えると、給料と仕事の割が合わず、また勤務時間も短いと感じました。1人暮らしのA美さんは家賃の支払いに困るようになり、午前中はカフェのアルバイトを掛け持ちするようになりました。

業務委託契約に切り替えたが苦戦

 しかしそのうち、「美容院まで行くのが面倒なので自宅でネイルをしてほしい」という顧客が現れ、休日に対応しました。するとネイル料金の全額を手にできるため、時間当たりの収入が増えることがわかりました。そこでA美さんは美容院経営者に、美容院内のネイルの対応を完全予約制にして予約のある時間帯だけ出勤し、時給換算でなく売り上げに応じた報酬に変更してほしいと交渉しました。

 経営者はA美さんの要望を受け入れてくれました。その条件は、ネイルの売り上げの65%をA美さんに支払うこと▽ネイル用品のうち消耗品はA美さんが負担すること▽アルバイトではなく業務委託契約にすること──でした。

 A美さんは「時間が自由になり、もっと稼げる」と思いましたが、現実は甘くありませんでした。顧客の数を増やすのに苦戦したのです。また完全予約制としたため、当日の急な依頼に対応できなくなることもありました。一方、当日の予約キャンセルもあり、その場合は出勤していても仕事がないため収入はゼロです。

 顧客1人当たりの収入は確かに増えました。しかしネイル用品などの負担を考えると、顧客の数が増えなければアルバイトの時の収入にも達しません。A美さんは自ら顧客を獲得していく手段を模索しています。

アルバイトと業務委託の違い

 A美さんのように資格や技術を持つ人が、他者の経営する店舗などで働く場合「雇用契約」か「業務委託契約」の二つがあります。A美さんの当初のアルバイト契約は「雇用契約」に当たります。

 雇用契約とは、会社に雇われて経営者の指揮命令下で仕事をすることです。仕事の対価は給料です。労働基準法や最低賃金法が適用がされ、労働時間に対する給料の支払いが法律で義務づけられます。会社を通じて社会保険に加入し、労災保険の適用もあります。

 一方で、就業規則などで働き方に制限があります。例えば、勤務時間や勤務日が決められたり、兼業や副業が禁止されたりします。会社に人事権があるため、必ずしも自分が希望する職種や勤務地になるとは限りません。

 給料は会社が定める給与規定などに従い査定するため、売り上げと収入が必ずしも比例しません。売り上げをいくら上げてもすぐ直接的に収入に反映されないため不満に感じる人もいるようです。ただし働いた時間分の給料や社会保険などが保障されるため、必ずしもデメリットではありません。

自分に合った働き方の選択を

 業務委託契約では、働く人が個人事業主として契約します。契約内容によりますが、基本的には勤務地や勤務時間などの制約はなく、契約した仕事の成果に対して報酬が支払われます。通常は他社の仕事も請けられるなど自分の裁量で仕事を進められるのがメリットです。

 労基法や最低賃金法の適用はなく、会社を通じて加入する雇用保険や労災保険の適用もありません。健康保険や年金保険料も全額自己負担です。また仕事に時間をかけても得られる収入はわずかというケースもあり得ます。仕事にかかる費用は自己負担するのが通常です。

 仕事の増減に合わせて単価交渉ができますし、割に合わない仕事は断ることもできます。ただし常に仕事がもらえるかどうかの保証はありません。仕事がたくさんあれば収入も増え、自分の力量が収入に直接反映される働き方と言えます。

 特に1社だけと契約する場合、雇用契約と同じような働き方をすると業務委託のメリットが生かせないケースがあります。A美さんのような人が働き方を考える際は、双方のメリットとデメリットを十分に考慮し、自分に合った選択をする必要があります。

 <「職場のトラブルどう防ぐ?」は原則金曜日に掲載します>

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井寄奈美

井寄奈美

特定社会保険労務士

大阪市出身。2015年、関西大学大学院法学研究科博士前期課程修了。現在、大阪大学大学院法学研究科博士後期課程在籍中(専攻:労働法)。01年、社会保険労務士資格を取得。会計事務所勤務などを経て06年4月独立開業。井寄事務所(大阪市中央区)代表。著書に『トラブルにならない 小さな会社の女性社員を雇うルール』(日本実業出版社)など。http://www.sr-iyori.com/

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