くらしシニア市場の正体

シニア女性がスマホに求める「ヒモ」と「誤作動対策」

梅津順江 / 株式会社ハルメク 生きかた上手研究所所長

 女性向け月刊情報誌「ハルメク」を発行する株式会社ハルメクの生きかた上手研究所所長として掲載情報や商品のマーケティングを担当する梅津順江(ゆきえ)さん(46)が、「シニア市場の正体」を読み解きます。

シニアのスマホ利用率は年代別・男女別で違う

 雑誌「ハルメク」ではスマートフォン関連の記事を掲載すると大きな反響があります。ハルメクは50歳以上のシニア女性を読者層としています。シニアたちはさぞ「スマホライフ」を楽しんでいるのかと思いきや、実際はそうでもないようです。どんな困りごとがあり、何を求めているのでしょうか。

 総務省が今年7月に発表した資料によると50、60代のスマートフォン利用率が4割を超え、上昇傾向です(総務省「2016年情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」)。「利用していないが将来ほしい」の割合も20%前後で、今後の利用率上昇が見込めます。

 ただ現在の利用率を年代別・男女別に見ると大きな違いがあります。50代女性は65.4%、50代男性は60.8%です。そして60代女性は28.9%、60代男性は35.1%です。60代女性の利用率が3割弱と低いことがわかります。

 先日スマホ特集記事のために、60代女性のスマホ利用者10人に集まってもらいインタビューしました。何をきっかけに従来型携帯電話(ガラケー)から買い替えたか理由を調べるためです。10人は夫婦2人暮らし、あるいは社会人の子供と同居する専業主婦で、大手キャリアー利用者7人、格安スマホ利用者3人でした。

「取り残されたくない」と焦る60代女性

 彼女たちの第一声の大半は「本当はスマホに切り替えたくなかった」でした。使い慣れていたガラケーのままがよかったといいます。ただし、「もっと年を取ったら新しいことを覚えられなくなるので切り替えるなら今しかない」という声もありました。

 世間で主流となり、家族や友人も使っているのに「自分だけ取り残されたくない」という焦りもあったようです。ですが、切り替えてみると不満な点が多々ありました。

 その一つは、「片手でメールが打てない」というスマホの大きさに対する不満です。また「指が乾燥して画面が反応しないことがある」というタッチパネル操作への不満もありました。

通信料に多額のお金を払いたくない

 さらに、より大きな不満がありました。過剰なサービスに高額な利用料を支払うことです。まず彼女たちは、毎月数千円かかるネット通信料を嫌がっていました。

 また参加者の一人は「電話とメールの最低限の機能だけで困っていなかった。スマホにすると自分たちが使えない余計な機能がついている」と言います。契約手続きをした際にインストールされる使わないアプリに料金がかかることに納得していませんでした。自分だけではアンインストールの仕方もわからないのでしょう。

 別の参加者はガラケーの時には、高額なジュエリーで本体をデコレーションしていました。目に見えるアクセサリー(モノ消費)にはお金を惜しまないのです。しかし目に見えない通信料やアプリ利用料(コト消費)にはお金を費やしたくありません。自宅では必ずWi-Fiを使うそうです。

 「体験」にお金をかけるコト消費でも、旅行や観劇・鑑賞会はシニア女性に人気があります。旅行をすれば楽しかった体験が記憶に残りますが、彼女たちにとって通信料やアプリ利用料は体験価値が低く、お金を使うこととして考えられないのでしょう。

 インタビュー中も、大手キャリアー利用者は格安スマホに興味津々で、格安スマホ利用者にさまざまな質問をしていました。格安スマホは、通信料に多くのお金を払いたくないシニア女性の心をつかむ可能性があると感じました。

「誤作動が怖い」から手帳型ケース

 インタビューでは、スマホケースにもシニア女性ならではの特徴があることがわかりました。まず、今回集まった10人全員が「手帳型のスマホケース」を使っていました。街中でシニア女性のスマホケースを観察しても、多くの人が手帳型です。

 その理由として、「画面の破損防止」「滑りにくい」「汚れない」などが挙がりました。そして最も深刻な問題だったのが「誤作動防止」です。参加者の一人は「知らない間に何かのボタンを押してしまうのが怖い。手帳型だと本体の脇も覆われているから安心」と言っていました。

 また参加者の多くが賛同したスマホケースに対する要望がありました。

 それは、スマホケースにヒモを通せる穴がほしいというものです。「バッグの中にあるスマホを探すのが一苦労。ヒモが通せれば引っ張れるので探しやすい」と言います。さらに「目が見えづらい」「バッグにスマホを入れたかどうかを忘れてしまう」というシニアならではの悩みも関係していました。

 なおヒモをつけたいという要望は、財布や鍵にもあります。シニア女性は出し入れの頻繁な貴重品にヒモを通す穴をほしがる傾向が見られます。シニア女性には、スマホ本体だけではなくケースなどアクセサリーも含めた提案が求められるのです。

 <「シニア市場の正体」は原則月1回掲載します>

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梅津順江

梅津順江

株式会社ハルメク 生きかた上手研究所所長

大阪府生まれ。杏林大学社会心理学部卒業後、ジュジュ化粧品(現・小林製薬)入社。ジャパン・マーケティング・エージェンシーを経て、2016年3月から現職。主に50歳以上のシニア女性を対象にインタビューや取材、ワークショップを行っている。著書に、「この1冊ですべてわかる 心理マーケティングの基本」(日本実業出版社)などがある。

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