スキル・キャリア職場のトラブルどう防ぐ?

「取引先から発覚」無断で残業する社員への対応は?

井寄奈美 / 特定社会保険労務士

 A社長(45)は、従業員約20人の小さな会社を経営しています。輸入食材を扱っているため頻繁に出張があり、会社にいることは多くありません。A社長の労務管理の負担軽減の目的もあり、同社では月25時間分の固定残業代を全社員に支給しています。ところが、2カ月前に中途入社したB輔さん(35)の残業が問題となり、困ったことになりました。

上司に相談もなく長時間残業

 A社長は、月25時間以上の残業をしないこと▽午後10時以降の残業は原則禁止することを同社のルールとして、ことあるごとに全社員に伝えていました。会社員をしていた自身の経験から、長時間残業をしても仕事の効率は上がらないと考えていたからです。終業時刻の午後6時までに仕事を終わらせることを目標としていました。

 月25時間までの残業をどう使うかは社員の裁量に任せ、残業をしてもしなくても25時間分の残業代を全社員に支給していました。残業せずに固定残業代を受け取る社員もいれば、毎月ギリギリの時間まで働く社員もいましたが、ルールは全社員に浸透し守られていました。しかし、中途入社の営業補佐、B輔さんが、そのルールを破っていることがわかりました。

 ある日、A社長が取引先に出向くと先方の担当者から「先日御社に入ったB輔さんは熱心ですね。メールをもらうのがたいてい午後9時過ぎです。御社では長時間残業はしないと聞いていましたが、方針を変えたのですか?」と言われたのです。A社長はビックリして、会社に戻りB輔さんに事情を尋ねました。B輔さんは次のように言いました。

 「終業までに仕事を終えようとしているのですが、間に合いません。時間がないと余計に慌ててミスしてしまいます。ですから毎日午後7時にタイムカードを打刻し、その後にじっくりと仕事をしています」

 B輔さんの上司にも事情を聞くと、上司が残っていると部下が帰りにくいと考え、仕事を終えたら速やかに帰宅していました。そして「退社時にB輔さんが残っていることは多いように思いますが、早く切り上げるよう声を掛けています。仕事量はまだ少ないので残業が多いことに気づいていませんでした」と言いました。

無断残業分の給料を支給したが……

 A社長は、メールの送信記録やB輔さんからの申告を受け、B輔さんの実際の労働時間を調べ直しました。勝手に残業していたとはいえ、働いた時間分の給料を払うべきだと考えたのです。月25時間超の時間分の残業代を計算して支払いました。

 一方、今後は勝手に残業することを禁止するとB輔さんに厳しく伝えました。また上司にもB輔さんの仕事量を把握し、就業時間内に終わらなければ他の社員に割り振るなど対応するよう指示しました。

 同社では、新入社員に3カ月の試用期間を設けています。A社長は、B輔さんを正式に採用する予定ですが、就業時間内に仕事を終えられず、誰にも相談せず勝手に社内ルールを破ったことから、今後に不安を感じています。

ルール徹底のために意識づくりを

 労働基準法では、社員の労働時間や休日、深夜業の取り扱いを規定しており、会社には社員の労働時間を適正に把握する責任があります。労働時間とは、使用者の指揮命令下で社員が労務の提供を行った時間です。社員の勝手な判断でも、客観的に残業せざるを得ない状況であれば、実際に働いた時間は労働時間とみなされる場合もあり得ます。

 A社長のケースでは、会社側はB輔さんが入社したばかりで仕事に慣れていないにもかかわらず、本人の自主性に任せて放置していました。同社の残業月25時間ルールを守るべきことと、時間内に作業が終わらない場合は誰に相談をすべきかをきちんと伝え、B輔さんに徹底してもらう必要がありました。

 中途採用の社員は、以前の会社での働き方を基準に仕事を進めてしまうケースがあります。「他社での勤務経験があるから、わざわざ説明する必要はないだろう」と考えずに、自社の働き方のルールを伝え、なじんでもらいましょう。

 A社長の「仕事の効率を上げて労働時間を短くする」という考えは、働き方改革の議論が起こっている時代の流れに合うものです。ただ考えを伝えるだけでは、労働時間短縮にはつながりません。社員には、仕事の効率を上げるための具体的な教育訓練や、社員自らがそうした行動をする意識づくりをしていく必要があります。

 <「職場のトラブルどう防ぐ?」は原則金曜日に掲載します>

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井寄奈美

井寄奈美

特定社会保険労務士

大阪市出身。2015年、関西大学大学院法学研究科博士前期課程修了。現在、大阪大学大学院法学研究科博士後期課程在籍中(専攻:労働法)。01年、社会保険労務士資格を取得。会計事務所勤務などを経て06年4月独立開業。井寄事務所(大阪市中央区)代表。著書に『トラブルにならない 小さな会社の女性社員を雇うルール』(日本実業出版社)など。http://www.sr-iyori.com/

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