クックピット社の直営店「麺や福十八」のラーメン=クックピット提供
クックピット社の直営店「麺や福十八」のラーメン=クックピット提供

社会・カルチャー「この人、この土地」だから生み出せる一品

「工場でラーメンスープ」業界を革新する元料理人の夢

小高朋子 / 旅食ライター・カメラマン

 上品な甘さの中にコクがある鶏白湯(パイタン)スープは、素材として鶏の骨だけを使い、無添加だ。臭みがなく深みのある味わいは飽きることがない。クックピット株式会社(東京都足立区)の鮮度にこだわった独自開発のスープは、ラーメン店を中心に多くの外食チェーン店や居酒屋などから支持されている。

業界初の無添加ストレートスープ

飲食店業界初の無添加業務用ストレートスープ
飲食店業界初の無添加業務用ストレートスープ

 スープのおいしさの秘密は、素材の鮮度にある。クックピット社では、家畜の食肉処理場内に専用工場を設置している。鮮度抜群の骨を使用し、独自開発の常圧釜で毎朝5~8時間かけてスープを炊き上げ、瞬間冷凍する。臭みを取るための調味料、添加物を一切使わない。これが、飲食店業界初の無添加業務用ストレートスープだ。温めて、そのまま使用できる。

 業務用スープには、濃縮還元や粉状のインスタント製品がある。しかし濃縮還元の場合、水を足して加熱するため味にばらつきが出やすい。また、沸騰すると焦げ臭さが出て味が落ちる。それを避けるために化学調味料を入れる場合もあるが、味にしつこさが残ってしまう。おいしさを追求すれば、ストレートにはかなわない。半面、ストレートスープは輸送コストが多額で保管場所も必要なため、取り扱う業者はなかった。

 クックピット社には、鶏白湯の他に豚骨だけのの豚白湯、豚と鶏が半々の豚鶏白湯、牛の骨だけを使った牛白湯がある。好みの調味料を加えれば、スープの味の幅が無限に広がる。そのおいしさと利便性から1400店以上と取引しているという。

食肉処理場内にクックピット社の専用工場
食肉処理場内にクックピット社の専用工場

 同社代表の本間義広さん(61)は、「心からおいしいと思えるものを提供したいという気持ちでした」と、スープを開発した目的を語る。

衝撃を受けたスープを工場でつくる

クックピット社代表の本間義広さん
クックピット社代表の本間義広さん

 本間さんは、板前として調理場に10年ほど立っていた経験がある。その後大手外資系飲食チェーンでスーパーバイザーとして13店舗を統括していた。しかしある日、立ち寄った西麻布のラーメン店でスープのおいしさに衝撃を受け、元料理人の血が騒いだ。

 それまでのキャリアを捨て、ラーメン店の店主に頭を下げて修業に入った。1992年のことだ。場所柄もあり、常連客には芸能人や資産家も多く、常に行列ができていた。そのため、「自分が気に入った味を家族が気軽に食べることができず残念だ……」と思ったという。

 そもそもスープの仕込みには長い時間がかかる。8時間以上を費やすのが一般的だそうだ。ラーメン店ではスープを仕込んで営業し、閉店後の後片付けまで立ちっぱなしの重労働が続く。業界の問題点だった。

 本間さんは、「店でスープをつくらなくても工場に職人がいればいい。長時間労働も改善できる」と考えたという。そこで修業先の支援を受け、工場でのスープづくりに取り組んだ。3年を要し、95年に納得できるスープが完成した。

 そして、2006年にクックピット社を設立。現在はスープや業務用食材の販売、ラーメン店の独立支援などの他、直営のラーメン専門店「麺や福十八」(文京区)を経営する。

クックピット社の直営店「麺や福十八」の青菜鶏そば
クックピット社の直営店「麺や福十八」の青菜鶏そば

安心、安全なスープを世界中に

 新商品の開発にも積極的だ。骨を原料としたスープは「ボーンブロス」と呼ばれ、ミネラルやビタミン、コラーゲン、アミノ酸などの栄養素が豊富だ。美容やダイエットの他、高齢者向けの栄養食としても注目を集めている。「多くの人に気軽にスープを飲んでもらいたい」という考えから、業務用とは別ブランドでボーンブロスの一般販売を展開する予定だ。

 また17年には、海外の販路拡大に向けて協力会社とともにタイに工場を新設した。4年の研究を重ねた無菌充てん機や、特殊な装置でスープを瞬時に加熱し殺菌するジュール加熱器などの最新機器を導入して常温で1年間保存できる新しい業務用スープを製造する。海外では輸送時の温度管理に不安があったが、品質の安定と安全が確保された。

17年にタイで稼働し始めた新工場
17年にタイで稼働し始めた新工場

 新商品は、イスラムの戒律に沿って調理されたことを認証する「ハラル認証」を取得し、イスラム圏でも市場展開できる。20年の東京五輪に向け、日本でも需要が高まることは間違いない。

 「おいしいスープは世界を救う! 本気でそんなことを考えています」と笑う本間さんの目の奥に、強い意志を感じた。

タイ工場のメンバーと本間代表(右から4人目)
タイ工場のメンバーと本間代表(右から4人目)

 <「『この人、この土地』だから生み出せる一品」は、原則月1回お届けします>

クックピット http://www.cookpit.co.jp/

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小高朋子

小高朋子

旅食ライター・カメラマン

1982年、神奈川県生まれ。アパレル業界、映像製作会社を経て、フリーランスに。持続可能なモノづくりの可能性を求めて各地を巡り、地域の食文化、工芸品、産業などを取材し、写真、映像も用いてその魅力を紹介している。現在、農業者向けのビジネススクール(オンラインアグリビジネススクール)にかかわり、各地の農業現場の取材を担当。旅と、おいしい食べものと日本酒が何よりも好き。

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