東京国際映画祭のレッドカーペットに登場したザ・イエロー・モンキーのメンバー=2017年10月25日、根岸基弘撮影
東京国際映画祭のレッドカーペットに登場したザ・イエロー・モンキーのメンバー=2017年10月25日、根岸基弘撮影

社会・カルチャー切ない歌を探して

ザ・イエロー・モンキー「JAM」若さゆえの身もだえ

森村潘 / ジャーナリスト

 自己否定の暗闇から理想を見いだそうとした作家・高橋和巳(1931~71年)が、青春についてこんなことを書いていた。

 「青年期にも打算はあり、裏切りはあり、屈服はある。だが、彼らは打算や裏切りや屈服を、当然のことだとは少なくとも考えない。その一点によってのみ、すべての未熟さは償われる」(「自立と挫折の青春像-わが青年論」1966年)

 一昨年再結成して話題を呼んだロックグループ、ザ・イエロー・モンキーの「JAM」(96年)という歌を初めて聴いたとき、半世紀以上前の青春論を思い出した。

胸に突き刺さる歌詞

 静かに始まり、徐々に高まりを見せるこの歌は、若さゆえの心のもだえを吐き出す。孤独な夜に世の中の不条理に気づき、その不安のなかで「きみ」を求める。最後のサビの部分、語るような詞が胸に突き刺さる。

 ♪外国で飛行機が墜(お)ちました ニュースキャスターは嬉(うれ)しそうに

  「乗客に日本人はいませんでした」

  「いませんでした」「いませんでした」

  僕は何を思えばいいんだろう

  僕は何て言えばいいんだろう

 作詞・作曲し、ボーカルの吉井和哉が歌い上げるこの詞から、若さゆえの純粋さといらだちのようなものが伝わってくる。日本人がいなかったことはいいことだろう。でも、なんか変じゃないか。自分のことは大事だけれど、でも誰かが傷ついている。

2016年12月31日の朝日新聞朝刊に広告として掲載された「JAM」の歌詞=朝日新聞縮刷版より
2016年12月31日の朝日新聞朝刊に広告として掲載された「JAM」の歌詞=朝日新聞縮刷版より

 自己の利益を打算することは若くてもある、でもそれを当然だとは思えないから悩む。そんなとき、どうしたらいいのか。

 その答えを吉井は切ないほどに訴える。「♪きみに会いたくて明日を待つ」と。不条理への懊悩(おうのう)を受け止めてくれるのは、難しい理屈などではなく「きみ」なのだと。ここに世の中と自己と「きみ」とのつながりがある。

「傘がない」と似て非なるところ

 この点は、井上陽水の「傘がない」(72年)と似て非なるところがある。若者の自殺の増加や国の将来が問題になっているが、自分にとっての今の問題は「『きみ』に会いに行く傘がないこと」と歌う。今なら当たり前のことかもしれないが、まだ若者が政治・社会問題に熱かった時代。逆にこの詞に新鮮さを覚えた人も多かった。

 今の時代はどうか。トランプ大統領の「アメリカ・ファースト」の言葉に象徴されるように、「自分が一番大事」と大手を振ってはばからない風潮が頭をもたげる中で「JAM」の言葉はいっそう切なく聞こえる。

 ザ・イエロー・モンキーは、89年に吉井をはじめ広瀬洋一(ベース)、菊地英二、(ドラム)、菊地英昭(ギター)の4人によって本格的な活動を開始する。デヴィッド・ボウイなどに象徴される70年代のグラムロックの流れをくんでいる。

 ファンタジックで物語性の濃いものや、JAMのようなメッセージ性のある曲が印象的だ。歌謡ロック的な親しみやすさがあり、これをミック・ジャガーのようなワイルドさを併せ持つ吉井のボーカルで聴かせてきた。しかし2001年に活動を休止し3年後に解散する。惜しまれての解散だけに一昨年の再結成は大きな話題を呼んだ。

ザ・イエロー・モンキーのライブの模様=1993年11月24日撮影
ザ・イエロー・モンキーのライブの模様=1993年11月24日撮影

16年末の紅白に登場

 16年末の紅白でも披露され、数多くのヒットの中でも彼らにとって特別な存在であるというJAMは、96年にシングルとして発表され、80万枚を超えるヒットとなった。曲の誕生について吉井は言っている。

 「ある日自分が抱いている不条理を、全部紙に書いてそれに曲を乗せた7分近いバラードを作った」

 この曲の成功の裏には、その数年後に急逝した、彼らの日本コロムビア時代のプロモーション担当で、同志でもあった中原繁の存在もあった。(敬称略)

参考書籍:「THE YELLOW MONKEYーCOMPLETE BURN」(ロッキング・オン 05年)

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森村潘

森村潘

ジャーナリスト

大手新聞、雑誌編集などを経てコミュニティー紙の編集などに携わる。ジャンルを超えて音楽を研究、アメリカ文化にも詳しい。

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