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女性の怖さを描いた芥川賞候補作の“不気味な読後感”

鶴谷真・大阪本社地方部

 テーマは世代の断絶、あるいは女性の怖さ、そういったものだろうか。木村紅美(くみ)さんの「雪子さんの足音」(講談社)である。1月に選考会があった第158回芥川賞の候補作となり、受賞は逃したものの実に完成度が高い。表面的にはハートウオーミングなのだが、読み続けるうちに不気味な領域にはまり込んでいく感じがたまらない。

 主人公は薫という男性。現在は故郷の仙台で公務員となっている。大学生だった20年前に東京・高円寺の家賃5万円のアパート「月光荘」に住んだ。この大家である雪子さんが90歳で熱中症のために孤独死したとの新聞記事を読むくだりで物語の幕が開く。薫は東京への出張ついでに、月光荘を再訪する。小説内の時間は20年前の薫の青春時代、大学3年生だった1994年ごろに移る。当時、雪子さんは70歳くらいだった。

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大阪本社地方部

1974年、神戸市出身。2002年に入社し、京都支局や学芸部などを経て22年から大阪地方部。