思い邪なし

思い邪なし83 冒険心とハングリーさ(二)

北康利・作家
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冒険心とハングリーさ(二)

 「技術出資株主ということにしよう」

 資本金を出すあてのない稲盛に、西枝はそんな知恵を授けてくれた。会社法でいう「現物出資」である。特許権やノウハウを現物出資の対象とするのは今でも価値算定が難しく例外的なことだが、西枝は弁理士資格を持ち、交川は元通産省審議官で特許庁勤務の経験もある。会計に精通している彼らだからこそ出てきた知恵であった。すでに彼らは稲盛のセラミック技術の価値を十分理解してくれていたのだ。後年、稲盛は会計にも大変詳しくなるが、この時はただ西枝たちの説明をうなずいて聞くだけであった。

 だが稲盛も頑張った。これからはフォルステライトの材料も自力で調達せねばならない。滑石は安価だが、問題は高価な酸化マグネシウムである。ここで彼は一計を案じた。塩田で塩を造る時ににがりが出る。その主成分が酸化マグネシウムだというので、稲盛自身、赤穂の塩田組合まで出かけて交渉した。これで相当な節約ができた。

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北康利

作家

1960年生まれ。東大法学部卒業後、富士銀行(現・みずほ銀行)入行。富士証券投資戦略部長、みずほ証券財務開発部長などを経て、2008年みずほ証券を退職し、本格的に作家活動に入る。著書に「白洲次郎 占領を背負った男」、「吉田茂 ポピュリズムに背を向けて」など。