くらし高齢化時代の相続税対策

80歳男性が家族で解決した長男への事業継承と相続

広田龍介 / 税理士

 Iさん(80)は妻(83)、長女(58)、次女(54)、長男(51)の5人家族。若い時から苦労して事業を起こして成功し、大きな財を築いた。

 最近、奥さんが自宅で転んで足を骨折してから車いす生活となり、認知症も発症した。健康には自信があったIさんだが、自分もいつどうなるかと思い、相続対策の必要性を考えるようになった。

相続税が20億円に達しそうで驚く

 自分の財産のたな卸しをして、相続税額はどのくらい計算されるのか、また、その納税資金の捻出はどうするのかなど、検討課題はたくさんあった。配偶者の税額軽減の適用の有無によっては、相続税の負担が2倍異なることになる。

 会社は無借金経営で、今は長男が後継者として社長を引き継いでいる。長男が事業承継するにあたり自社株式の評価額を計算してみると、財産全体の中で自社株式評価額の占める割合が50%で約20億円と非常に高いことがわかった。

 その他、自宅を含む不動産が約30%、金融資産が約20%となり、相続税額の負担割合も配偶者軽減前で約20億円とかなりの額になることも知った。

 長男に今後の会社経営を任せる以上、株式は長男家族に引き継がせていきたい。しかし、そのためには、納税資金を何とかしなければならない。配偶者の軽減特例が適用できない最悪のケースも念頭に置いておかなければならない。

家族がバラバラになるのを恐れた

 その場合Iさんは、財産のほとんどを長男に相続させることになるだろうと考えた。しかしそうなると、長女、次女のことが気になる。

 実はIさんは、姉弟同士の話し合いで遺産分割協議が成立するとはあまり思っていなかった。かといって、遺言書を作成して大部分を長男に相続させることになれば、姉妹は法律上認められている遺留分の請求をしてくるだろう。そうなると家族はバラバラになるのではないかと思い悩んでしまった。

 一人で考えると誰しも陥りやすい悩みだ。そんな時は、余計なことを一人で考えずに家族で話し合うことが必要だ。

 現在の財産状況がどうなっているか、その納税額がどのくらい必要なのか、納税資金の捻出方法はどうするか、事業を継続するための経営の難しさなどを、家族みんなで考えてもらうことが必要なのだ。子供は自分たちが蚊帳の外に置かれて議論されることを一番嫌うだろう。

意外にも家族会議で一気に解決

 Iさんは、奥さんの健康状態を口実に子供たちを集めて、おそるおそる相続について話を切り出した。

 子供たちの反応は意外と冷静だった。それどころか、前向きの意見が出てきた。相続で取得する自社株を、発行法人が自社株を買い取る「金庫株」にすれば譲渡課税となって税率が低くなり、さらに納税資金も確保できる。姉妹からは、長男の事業承継は大変なことで、その協力は惜しまず、自分たちの相続は支払い可能な金融資産の額で了承するなど、Iさんが心配していたことは一気に解決してしまった。

 Iさんは自分の悩みはいったい何だったのかと、家族に教えられたうれしさに包まれた。

 <「高齢化時代の相続税対策」は毎週日曜日に掲載します>

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広田龍介

広田龍介

税理士

1952年、福島県いわき市生まれ。85年税理士登録。東京・赤坂で広田龍介税理士事務所を開設。法人・個人の確定申告、相続税申告、不動産の有効活用などを中心に幅広くコンサルティング活動を続けている。相続税に関する講演やセミナーも開催している。

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