くらし保険選びの相談室

「元本割れも」外貨建て終身保険の“魅力とリスク”

岩城みずほ / ファイナンシャルプランナー

 A太さん(35)とB美さん(32)夫妻はともに会社員です。家計の手取り年収は約650万円で、子供はいません。先日マイホームを購入し頭金を支払った後も、約1000万円の貯蓄があります。現在の保険を見直すことにしたのですが、夫妻で意見が合わない部分があり、私のところに相談に来ました。

住宅購入を機に保険を見直し

 A太さん夫妻は住宅を購入し、ローンの債務者が死亡したり高度障害状態になったりした場合に残債がなくなる団体信用生命保険(団信)に加入しました。それを機に、現在の保険を見直そうと夫婦で大型の来店型保険代理店へ相談に行きました。代理店はテレビCMで知りました。「相談は何度でも無料。30社超の保険を取り扱い」とうたっていたので、自分たちに合う保険が見つかると考えたそうです。

 保険代理店では、それぞれ現在加入中のものより保障の充実した医療保険と、一時払いの外貨建て終身保険を薦められました。医療保険は、保険料が現在より高額になるので加入を見送りましたが、A太さんは、一時払いの外貨建て終身保険に魅力を感じて加入を希望しています。一方、B美さんは説明を聞いてもよくわからず、「本当に大丈夫なのか?」と疑問に思っているそうです。

外貨建て保険の魅力的なセールストーク

 薦められている一時払い外貨建て終身保険は、保険料500万円を一括で支払い、米ドルや豪ドルなど日本円よりも金利が高い外貨で運用される保険です。外貨ベースで保険金額と保険料が決まります。A太さんが保険代理店から提案された保険設計書は、1豪ドル約83円で計算され、20年後の返戻率が150%と記されていました。

 この手の保険は、これまで60~80代のシニア富裕層を中心に販売されていました。私は、30代のA太さん夫妻が薦められたと聞き驚きました。ある保険会社の人に聞くと、来店型保険代理店ではこの手の保険の販売件数の75%が30~50代で、特に30代が40%を占めるそうです。低金利で円建ての貯蓄性保険の魅力が薄れ、各保険会社が外貨建て保険の販売に力を入れています。

 薦められる人にとって、外貨建て保険は魅力的な商品にうつるようですが、その理由は何でしょうか。A太さんが魅力を感じた代理店のセールストークは、次の3点でした。

 一つめが、低金利の円と違い、利率の高い米ドルや豪ドルで運用することで保険金額が大きくなり、より安い保険料で死亡保障を持てること。二つめが、日本円と米ドルや豪ドルとの金利差が、長期的には資産形成に大きな差になること。三つめが、外国資産を持つことで円安による日本円の相対的な目減りやインフレの回避が期待できることです。

損もあり得ることを知っておく

 しかし、この手の保険はコストが非常に高く、貯蓄を目的にするのであれば合理的な商品とはいえません。まず、契約の初期費用として一時払い保険料から5~9%の費用が差し引かれます。加入と同時に資産が減るのです。A太さんの設計書では、初期費用で約35万円が差し引かれると記されていました。運用に回るのは465万円なのです。

 さらに通貨の交換時に為替手数料がかかります。円払いにしたり、円で受け取ったりする特約をつければ、その分の保険料が上乗せされます。保険期間中は、保障と運用のコストが毎月かかります。保険金を受け取る時には、為替相場によっては円に換算した金額が支払った保険料を下回る場合もあります。

 また途中解約すれば、期間によっては多額の解約料を取られます。市場環境の変化によって解約返戻金が減少することもあり得ます。この手の保険商品では、損もあり得ることをまず知っておきましょう。

理解できない商品は資産を減らす原因に

 保険は、株式や投資信託で運用するより安心と思っている人も多くいます。A太さんには、保険提案書の返戻率150%は支払った保険料に対して必ず約束されたものではないと説明すると、驚いていました。

 何より商品が複雑なことが問題です。これまで私が受けた相談で、外貨建て保険の内容を正確に理解している人はほとんどいませんでした。理解できない商品を買うことは、資産を減らす原因になります。A太さん夫妻にこうした説明をしました。そして夫妻で話し合った結果、外貨建て保険への加入は見送りました。

 <「保険選びの相談室」は原則月2回掲載します>

医療保険「健康祝い金」保障にプラスで一石二鳥なの?

保険を勧められた21歳大学生への大切な「お金の話」

「2人に1人ががんに」33歳女性のリスクと保険対策

「学資+外貨建て養老」セットで勧める保険会社の思惑

「両親ががんで他界」30歳独身女性の保険と老後

【1記事3分で読める「経済プレミア」トップページ

岩城みずほ

岩城みずほ

ファイナンシャルプランナー

CFP認定者、オフィスベネフィット代表。NHK松山放送局を経て、フリーアナウンサーとして14年活動。その後セミナー講師、生命保険会社を経て2009年に独立。個人相談のほか、貯めると増やすの車座の会「C(貯蓄)リーグ」、良質なマネーの勉強会「サムライズ」主催。著書に「人生にお金はいくら必要か」(山崎元氏と共著・東洋経済新報社)などがある。

イチ押しコラム

ニッポン金融ウラの裏

NISAに最初の「5年満期」更新しないと非課税消滅

 少額投資非課税制度(NISA)が初めての期間満了を迎える。一定の手続きによって、さらに5年間の非課税期間延長となるが、いま、証券…

藻谷浩介の世界「来た・見た・考えた」
地下化されたワルシャワ中央駅上の広場。スターリン建築と民主化後のビルが林立する(写真は筆者撮影)

西に移動させられた国ポーランド 首都ワルシャワの今

 ◇ポーランド・ワルシャワ編(1) 36年前、高校の文化祭のディベートで、「史上最大の英雄は誰か」というお題に、「ポーランドで共産…

メディア万華鏡
週刊文春11月1日号

メディア騒がすドタキャン沢田研二の「格好いい老後」

 騒ぎ過ぎじゃないか。取り上げ方の息もなんだか長い。ジュリーこと沢田研二さん(70)が、10月17日にさいたまスーパーアリーナで予…

職場のトラブルどう防ぐ?

「部下の夫から連日クレーム」42歳女性上司の困惑

 A美さん(42)は、夫が院長を務めるクリニックの事務長を務めています。2カ月前から経理担当として働いているB子さん(33)の夫か…

知ってトクするモバイルライフ
デザインや機能を一新した「iPadプロ」。左が11型、右が12.9型

新「iPadプロ」はホームボタンなくして超高性能

 アップルは、米ニューヨークで10月30日(現地時間)、「iPadプロ」の新モデルを発表した。11月7日に発売される予定で、価格は…