スキル・キャリア職場のトラブルどう防ぐ?

「フルタイム希望」育休明けパートの処遇で現場混乱

井寄奈美 / 特定社会保険労務士

 従業員約100人の製造会社の管理部門責任者、A男さん(52)は製造ラインのシフト調整を含む人員管理を主な役割としています。A男さんは、この4月に育児休業から復職した工場勤務のパートタイマー、B子さん(38)の処遇に頭を悩ませています。

残業もあるフルタイム勤務の復職を希望

 B子さんは昨年第1子を出産しました。無事に保育所も決まり、復職前面談では、出産前と同様、残業がある午前9時から午後6時までのフルタイム勤務を希望しました。

 その際、A男さんは、当面は短時間勤務で働くようB子さんに提案したいと考えていました。

 製造ラインでは、フルタイム勤務のほか、短時間勤務のパートも働いています。フルタイムのパートは日々の生産計画を把握して他のパートに指示する「現場リーダー」の役割があり、「リーダー手当」として月3000円が支給されます。B子さんは3年前の入社時からフルタイムパートで働き、リーダーも務めていましたが、妊娠後、産休に入るまでは遅刻したり、急に休んだりすることが増え、「現場リーダー」の役割を十分に果たせていなかったからです。

 また、B子さんからは「近くに頼れる親戚がいない」とも聞いていました。保育所には午後7時まで子供を預けられますが、会社から車で30分ほどかかります。子供の迎えができるのかを確認すると「夫が毎日行くので、私は残業もできます」と言います。

 A男さんは、B子さんの意に沿わない提案をするのは「マタニティーハラスメント」ととらえられてしまうのではないかと考え、結局、B子さんを信じてフルタイムでの復職を認めました。当面は新たに「サブリーダー」という立場を作り、B子さんをリーダーの補佐役としました。ただし、手当の額はリーダーと同じです。

役割を十分に果たすことができず……

 こうしてB子さんは4月に復職しました。

 当初は午後になると眠そうな様子を見せたり、育休中に交代した上司とのやりとりに苦労したりしているようでした。また、出勤が始業時間ギリギリとなり、リーダーと事前の打ち合わせができず、パートに指示ができないこともありました。

 パートには子育て中の人が多く、育児と仕事を両立する大変さを理解しています。B子さんが仕事と生活のペースを取り戻せば問題なく役割を果たすだろうと、皆が思っていました。

 しかし、実際は逆でした。B子さんは、朝の子供の世話に手間取って遅刻したり、子供の体調不良で保育所から呼び出されたりして、現場に穴を開けることが増えたのです。

 また、子供の迎えは夫が担当するはずでしたが、人事異動で夫は定時退社が難しい部署に移り、B子さんがほぼ毎日迎えに行くことになりました。残業もできず、そのしわ寄せを受ける短時間勤務のパートを中心に、B子さんへの不満の声が上がりました。

 様子を見かねたA男さんは「今からでも短時間勤務に切り替えられる」とB子さんに伝えました。しかし、B子さんは「1時間でも長く働きたいんです。できます」の一点張り。A男さんは頭を悩ませています。

復職者と周囲が働きやすい処遇と環境

 産休や育休から復職した従業員の処遇は、原則として休業前の業務復帰です。一方、会社には人事権があり、通常の人事異動の範囲であれば異動も可能です。

 ただし、就業場所の変更を伴う配置転換は、育児・介護休業法により復職者への配慮が求められます。復職の際、正社員からパートタイマーへの転換を強制したり、給料や役職を合理的な理由なく引き下げたりすることは不利益な取り扱いとされ、禁止されています。

 また3歳までの子供を育てる従業員から請求があった場合は、所定外労働(残業)を免除したり、短時間勤務を適用したりしなければなりません。ただし、会社側はこれらの制度を従業員に強制することはできません。労働時間の短縮は給料の減少につながるため、必ずしも従業員のメリットにならないからです。

 B子さんの事例を見てみましょう。B子さんがフルタイム勤務を希望して復職し、会社がフルタイムのパートに対して一律にリーダー手当を支給すると決めていれば、そう対応せざるを得ません。ただし社員と同様に、パートにも昇級や賞与の査定があれば、遅刻や早退が多ければ勤怠不良と判断され、マイナス査定されるでしょう。遅刻や早退、欠勤時間の給料を会社が支払う義務はありません。勤怠不良が続けば、会社側は改善指導する必要があります。

 B子さんには、フルタイムのパートとして求められる役割や就業時間など会社側との「約束」を守る必要があります。一方、会社側もB子さんの自助努力に頼るだけでなく、B子さんと周囲のパートが働きやすい処遇や環境を整えることが求められます。

 <「職場のトラブルどう防ぐ?」は原則金曜日に掲載します>

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井寄奈美

井寄奈美

特定社会保険労務士

大阪市出身。2015年、関西大学大学院法学研究科博士前期課程修了。現在、大阪大学大学院法学研究科博士後期課程在籍中(専攻:労働法)。01年、社会保険労務士資格を取得。会計事務所勤務などを経て06年4月独立開業。井寄事務所(大阪市中央区)代表。著書に『トラブルにならない 小さな会社の女性社員を雇うルール』(日本実業出版社)など。http://www.sr-iyori.com/

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