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「AIスピーカー覇権」先行アマゾン・追うグーグル

エコノミスト編集部

 世界を代表するIT企業のグーグル、アップル、アマゾン、フェイスブック、ネットフリックス、アリババの6社の時価総額合計は3兆5531億ドル(約388兆9578億円、5月7日現在)。日本の国内総生産(GDP)の7割に達する規模だ。

 これらの企業は、ネットを使って人と人、人と企業、そして情報を結ぶビジネスモデルから「プラットフォーマー」と呼ばれてきた。情報端末の主役がパソコンからスマートフォン、さらにはAI(人工知能)スピーカーへと移る中、巨大IT企業の覇権も揺れ動く。週刊エコノミスト5月22日号の巻頭特集「ネットの新覇者」よりお届けする。(ニューズフロント・フェロー・小久保重信+編集部)

スマホの「次」の主役は

 AIスピーカーは、音声アシスタント機能を搭載したスピーカーだ。IT企業は今、AIと音声認識技術を組み合わせた音声アシスタント機能の研究開発にしのぎを削る。アマゾンは「アレクサ」、グーグルは「グーグルアシスタント」、マイクロソフトは「コルタナ」、アップルはアイフォーン搭載でおなじみの「Siri(シリ)」だ。

 世界のIT大手は、こぞってAIスピーカーの新製品を投入している。そのなかで、2014年にアレクサを搭載したアマゾンエコーを発売して以来、独走を続けるのがアマゾン。米調査会社eマーケターによると、17年の米国におけるシェアは70.6%。2番手は「グーグルホーム」を16年11月に発売して猛追するグーグルで、23.8%のシェアを握る。

ネットの「主戦場」は指から声へ

 パソコンやスマホでは基本的に文字で入力するが、AIスピーカーの場合は「声」。人間が話した言葉を音声アシスタントが認識し、反応する。「今日の天気は?」と聞けば天気を答える。自宅の家電がインターネットに接続されたスマート家電ならば、テレビやエアコン、照明や玄関ドアの施錠といった操作も声でできる。

 最大手アマゾンの強さの一つは、「スキル」と呼ばれるアプリケーションの豊富さだ。スキルは、外部業者のサービスを利用する際に使うアプリ。例えば、「全国タクシー」のスキルを使えば声だけでタクシーを手配できる。宅配ピザのドミノ・ピザを注文したり、スターバックスに事前注文したりするスキルもある。

 AIスピーカーで他社に先行したアマゾンはスキルのラインアップを早期に充実させ、使い勝手で抜きんでた存在になった。14年の発売当初、アマゾンエコーはアマゾンが用意する音声アプリを利用できるだけだったが、同社はスキルの音声アプリを作成するためのソフトウエア開発キットを15年6月に開放した。その結果、1年後にはスキルが約1000種となり、17年6月末には1万5000種を突破。18年5月時点では、4万種そろった。

 いわゆる「スマホの次」をめぐる攻防は今に始まった話ではない。グーグルはメガネ型情報機器「グーグルグラス」を14年に発売し、アップルは15年4月に腕時計型情報機器「アップルウオッチ」を商品化した。だがグーグルグラスはカメラ機能がプライバシーを侵害する可能性があると問題視され、一般向け商品化を事実上断念。アップルウオッチは現在も販売中だが、他社が追随するほどのヒット商品には育っていない。

アマゾンは小売業の経験生かす

 その中でAIスピーカーが頭一つ出てきたのは、スマートホーム(スマート家電)の機能を通じてユーザーの家に入り込み、使い勝手の良さを実感させたことが大きいだろう。アマゾンは小売業を通じて培ったメーカーとの関係を生かして、スマート家電といち早く連携できたことが、成功の一因と考えられる。

アマゾンエコーの発売を発表(東京都渋谷区で2017年11月)
アマゾンエコーの発売を発表(東京都渋谷区で2017年11月)

 従来、電子機器と人間の接点(インターフェース)はパソコンのキーボードやマウスであり、スマホの登場でそれが指へと変わってきた。AIスピーカーの登場により、その接点が「声」に移る可能性が出てきたといえる。

 この動きに最も関心を持っているのは検索大手のグーグルだろう。スマホやパソコン上の検索エンジン市場でグーグルにとって代わる企業はそう簡単に現れないが、インターフェースが指から声に移った時、グーグルはアマゾンに勝てない可能性がある。これはある意味で、プラットフォーマーの交代と言える。

 アマゾンは音声広告の研究を進めているとの報道もある。18年5月には、企業などがアレクサを使ってマネタイズ(収益化)する仕組みを一般公開すると発表した。企業はアレクサ向けアプリを開発し、利用者に音声コンテンツを販売したり、課金サービスを提供したりできるようになる。

トヨタもアマゾン・アレクサを搭載へ

 また、イベントのチケットなど物理的な商品も販売できるようになる。将来的に、AIスピーカー事業は、ハード(機器)の販売による売り上げよりも、ハードを通じたコンテンツの売り上げの方が大きくなるだろう。

 AIスピーカーに搭載された音声アシスタント機能は、自動車への搭載も研究されている。トヨタ自動車は18年に一部車種にアマゾン・アレクサを搭載することを発表済みだ。その他の自動車メーカーもIT企業と協業を進めている。「声」のプラットフォームをめぐる競争は熾烈(しれつ)を極めることになりそうだ。

    ◇    ◇

 この記事は、週刊エコノミスト5月22日号の巻頭特集「ネットの新覇者」をウェブ用に編集したものです。連載「週刊エコノミスト・トップストーリー」は原則、毎週水曜日に掲載します。

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藤枝克治編集長率いる経済分野を中心として取材、編集するチーム。経済だけでなく社会、外交も含め幅広く取材する記者の集団であり、各界の専門家にコラムや情報提供を依頼する編集者の集団でもある。

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