対談イベント「東芝問題~銀行は役割を果たしたか」ゲストの布施太郎・ロイター通信特別編集委員(左)と、今沢真・経済プレミア編集長
対談イベント「東芝問題~銀行は役割を果たしたか」ゲストの布施太郎・ロイター通信特別編集委員(左)と、今沢真・経済プレミア編集長

政治・経済東芝問題リポート

東芝取材で感じた「米原発子会社や銀行との相互不信」

編集部

「東芝と銀行」対談イベント(1)

 経済プレミアは「東芝問題~銀行は役割を果たしたか」をテーマに5月23日、金融業界を十数年にわたって取材してきた布施太郎・ロイター通信特別編集委員をゲストに招き、今沢真・経済プレミア編集長との対談イベントを開いた。その内容を複数回にわたり掲載する。第1回は、布施氏が「『東芝問題』を金融記者として取材して見えたもの」と題して行った講演を紹介する。

 布施氏は1991年に神戸新聞に入り、2001年にロイター通信に移った。銀行業界を中心に取材を続け、10年に特別編集委員に就いた。米原発事業破綻で経営危機に陥った東芝に対し、三井住友銀行、みずほ銀行、三井住友信託銀行の主力3行を中心に取引銀行が支援体制を組んだ。布施氏はロイター通信の取材陣の中心として記事を執筆してきた。

    ※    ※

布施・ロイター特別編集委員「東芝取材で見えたもの」

 東芝問題の取材を通じて感じたことは、東芝が「不信の相互連鎖」に陥っていたということです。まず、米原発子会社ウェスチングハウス、そして監査法人との間の不信。半導体メモリー事業を共同出資で運営してきた米ウエスタン・デジタルとの関係も最悪になりました。ウエスタン・デジタルは突然持ち上がった半導体の売却話に猛反発したのです。

ウェスチングハウスが建設を進めていたボーグル原発=2016年5月、清水憲司撮影
ウェスチングハウスが建設を進めていたボーグル原発=2016年5月、清水憲司撮影

 銀行との間でも、信頼関係を築けなかったのではないでしょうか。問題があまりにも大きすぎて銀行の手に余ったという印象を受けました。

 ウェスチングハウスの巨額損失が最初に表面化したのは16年12月下旬でした。5000億円規模の損失を計上する可能性があると、NHKが特ダネで報じました。報道の裏側には、東芝が主力銀行に巨額損失の可能性を伝えたことがありました。

親会社と子会社の関係が正常でなかった

 東芝トップの綱川智社長が、原発事業の担当者から損失について報告を受けたのはその1週間前のことでした。綱川氏は原発子会社で何が起きていたのか知らなかったのです。親会社と子会社との間に正常な関係が成り立っていなかった。「相互不信」だったと思います。

布施太郎・ロイター通信特別編集委員
布施太郎・ロイター通信特別編集委員

 その後に損失が約7000億円になることが確定しましたが、東芝はウェスチングハウスの「破産」を決断できずにいました。東芝を動かしたのは銀行です。破産申請することで子会社から外し、将来にわたって損失が膨らむことを止めたのです。破産により東芝の損失は1兆円を上回りましたが、この判断は正しかったと思います。

半導体事業売却に銀行が深く関与

 巨額の損失を穴埋めするために行った半導体メモリー事業の売却についても銀行が深く関与しました。東芝は17年1月に、保有する子会社の全株式のうち20%だけ売る決定をしました。ところがこうした中途半端な株数では、高く売れないのです。株式の過半数売却に向けて東芝の背中を押したのは主力銀行でした。

 東芝は債務超過に陥ったため、大口債権者である銀行の言うことを聞かざるをえなかったのです。ですが、利益の9割を稼いでいた半導体メモリー事業の売却が本当に正しかったかは議論の余地があります。別のやり方、例えば、銀行が優先株を引き受けたり、融資を出資に振り替えたりして債務超過を解消する選択肢もあったと思います。

 そうしたやり方は、東芝が自分の責任で開けた大穴を、銀行がリスクを背負って穴埋めすることになります。そうした話は、東芝と銀行の間に深い信頼関係がなければできないことで、実際にはそんな信頼関係はなかったと言っていいでしょう。

“経産省介入”の問題点

経済産業省=2014年8月29日、瀬尾忠義撮影
経済産業省=2014年8月29日、瀬尾忠義撮影

 最後に言いたいのは、「経産省の介入」の問題です。綱川社長が経済産業省の担当局長をしばしば訪れて、半導体事業の売却の経過を報告していました。経産省は東芝の半導体技術が流出すべきではないと考えていたのです。

 その結果、中国の企業は半導体事業の買い手として手をあげませんでした。台湾の企業は入札に参加し、高値をつけましたが買い手に選ばれませんでした。米投資ファンドを中心とする日米韓連合に売却することで決着しましたが、経産省が口を出すことがいいことなのかと強く思いました。

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編集部

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長く経済分野を取材してきた今沢真・毎日新聞論説委員を編集長にベテラン・若手編集者が経済・社会の最新情勢を追います。
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