「鴻池(こうのいけ)の犬」という上方落語がある。捨て犬の世話をしていた商家の丁稚(でっち)のもとから、豪商の鴻池家にもらわれていった犬が主人公の話で、その豪勢な暮らしぶりが笑いをさそう。
四隅に金具を打ち、中に緞子(どんす)の布団を敷いた輿(こし)でもらわれていった黒犬のクロは、病気をしないように医者が3人かかり切りで、朝からちょっとクシャミをしたといっては薬を飲ませ、滋養のある結構なものばかり食べさせてもらった。やがてクロは大きなたくましい犬に成長して大坂一の犬の大将になる、というストーリーだ。
鴻池家では飼い犬でさえこれだけ豪勢な暮らしができる、と大坂の庶民から羨望(せんぼう)のまなざしでみられていた。江戸一の豪商とされた三井家に対して、大坂を代表する豪商が鴻池家である。江戸後期には実に全国の3分の1の藩が鴻池家から金を借りていたといい、大名でも頭の上がらない天下の豪商だった。
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