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江戸時代に大坂一の繁栄を誇った豪商「鴻池家」の優雅

森岡浩・姓氏研究家
大阪市中央区に1980年まで残っていた鴻池本邸の長屋門。現在は奈良市に移築されている=大阪美術倶楽部提供
大阪市中央区に1980年まで残っていた鴻池本邸の長屋門。現在は奈良市に移築されている=大阪美術倶楽部提供

 「鴻池(こうのいけ)の犬」という上方落語がある。捨て犬の世話をしていた商家の丁稚(でっち)のもとから、豪商の鴻池家にもらわれていった犬が主人公の話で、その豪勢な暮らしぶりが笑いをさそう。

 四隅に金具を打ち、中に緞子(どんす)の布団を敷いた輿(こし)でもらわれていった黒犬のクロは、病気をしないように医者が3人かかり切りで、朝からちょっとクシャミをしたといっては薬を飲ませ、滋養のある結構なものばかり食べさせてもらった。やがてクロは大きなたくましい犬に成長して大坂一の犬の大将になる、というストーリーだ。

 鴻池家では飼い犬でさえこれだけ豪勢な暮らしができる、と大坂の庶民から羨望(せんぼう)のまなざしでみられていた。江戸一の豪商とされた三井家に対して、大坂を代表する豪商が鴻池家である。江戸後期には実に全国の3分の1の藩が鴻池家から金を借りていたといい、大名でも頭の上がらない天下の豪商だった。

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姓氏研究家

1961年、高知県生まれ。早稲田大学在学中に独学で姓氏研究を始める。文献調査やフィールドワーク、統計を用いた実証的手法を用いる。2017年4月からNHK「人名探究バラエティー 日本人のおなまえっ!」に出演。著書、多数。