
2000年1月下旬、オーストラリア東部の市が更新した下水処理施設の監視制御システムに問題が発生した。下水処理用のポンプ場に送った信号が受信できず、ポンプが突然作動したり作動しなくなったりした上、誤った警報が鳴り響くようになった。
市の水道当局は当初、故障原因は制御システムの動作不良と考えていた。しかし、3月中旬、エンジニアがポンプ場のシステムの設定を変えた直後に設定が元に戻ってしまったため、無線装置を使ってハッキングされていたことに気付いた。3月下旬になると、ポンプの不調回数が増加し、中央コンピューターから制御できなくなり、技術者たちはポンプを手作業で動かさざるを得なくなった。
そのポンプの故障により、1000立方メートルの下水が公園数カ所、河川、ホテルの敷地に流入した。オーストラリア環境保護庁によると、海洋生物が死に、河川が黒く変色しただけでなく、住民にとって耐え難い悪臭が続いたという。
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松原実穂子
NTTチーフ・サイバーセキュリティ・ストラテジスト
早稲田大学卒業後、防衛省で9年間勤務。フルブライト奨学金により米ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院で修士号取得。その後、米シンクタンク、パシフィックフォーラムCSIS(現パシフィックフォーラム)研究員などを経て現職。国内外で政府、シンクタンクとの意見交換やブログ、カンファレンスを通じた情報発信と提言に取り組む。