金融フォーラムで講演する金融庁の遠藤俊英・監督局長(当時)=熊本市で2017年2月28日、小原擁撮影
金融フォーラムで講演する金融庁の遠藤俊英・監督局長(当時)=熊本市で2017年2月28日、小原擁撮影

マネー・金融ニッポン金融ウラの裏

金融庁「遠藤体制」で地域金融を担う“二枚看板”とは

浪川攻 / 金融ジャーナリスト

 中央官庁の夏の定期人事異動に伴って、金融庁の新体制が発足した。“剛腕”と呼ばれ、実力派長官として3年にわたって金融改革を主導した森信親氏(61)が退官し、代わって、監督局長を務めてきた遠藤俊英氏(59)が新しい金融庁長官に就任した。今後の金融行政の焦点を探ってみた。

金融庁の森信親前長官=2017年7月14日、丸山博撮影
金融庁の森信親前長官=2017年7月14日、丸山博撮影

 森氏は強烈なリーダーシップで改革路線を進めた。地域金融機関の再編など経営基盤の強化、ガバナンス(企業統治)向上をはじめとする資本市場の課題への取り組み、つみたてNISA(少額投資非課税制度)など投資優遇制度の創設--といった施策が進められた。

 金融機関への検査・監督方針を示した「金融検査マニュアル」も廃止した。そうした施策を通じて今後の金融資本市場の基本的なデッサンを描いた。金融機関に「生き残りのための改革」を迫る姿勢に対して、業界から恐怖のまなざしを注がれた面もあった。

遠藤新長官は「現場重視」

 これに対して、新長官の遠藤氏は柔和なイメージで語られる。「我々の話に耳を傾けてくれるだろう」(中堅地銀幹部)と、森路線の行政主導的なアプローチが緩和されることを期待する声も出ている。

 だが、この点について結論を急げば、金融業界は「根拠なき期待感」は抱かないほうがいいだろう。

 遠藤氏は対話型の行政手法で知られ、現場重視の姿勢を貫いてきた。「面白い取り組みをしている金融機関がある」という情報が入れば、その金融機関に自ら出向いてヒアリングする行動派だ。

 金融庁の出先機関である財務局や財務事務所が担当している信用金庫、信用組合にも直接電話をかけたり訪問したりして、地域金融機関の経営の取り組み方を理解してきた。そういう意味では確かに「聞く耳を持つ」人物である。それをもって、「話が分かる」という期待感が生まれるのかもしれない。

 だが、それによって従来の金融行政路線のグリップやスピード感が緩和されるという結論にはならないだろう。例えば地域金融の分野では、むしろ、現場重視の姿勢を通じて、厳しい実情を十分に把握していると言っていい。

金融庁=2014年6月11日、根岸基弘撮影
金融庁=2014年6月11日、根岸基弘撮影

地域金融問題の高い優先度

 その面で注目すべきなのは、地域金融を担当する審議官に、総務企画局参事官だった油布志行(ゆふ・もとゆき)氏が充てられ、かつ、新設された総合政策局の地域金融監理官に検査局企画審査課長を務めていた渡辺公徳氏が就く人事配置である。

 油布氏は、森体制の改革路線の実現に最も貢献したと指摘されている人物だ。一方の渡辺氏は内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局参事官として、地域金融機関による地域創生の取り組みを追って全国各地を走り回り、その実情を細かく理解してきた。

 この2人が二枚看板となって地域金融問題を担うのは、遠藤長官の新体制のなかで、いかに地域金融問題の優先度が高いかを物語っている。

 遠藤氏は「金融機関の自主性」を重視している。これを別の言葉で表現すると、自主性を発揮するようプレッシャーを強めるが、経営課題を自主的に解決できない金融機関には、別の方法をとるということである。

 すなわち厳しい金融行政には変わりはないということだ。金融庁長官の人柄の問題ではなく、厳しい経営環境が続くからである。地銀など地域金融機関は、経営問題の解決に取り組むアクセルを踏み込まないと、遠藤体制のなかで、レスキュー車に牽引(けんいん)される立場になりかねない。

    ◇    ◇

 金融業界を30年余にわたり取材してきた金融ジャーナリスト、浪川攻さんが「ここだけの話」をつづります。「ニッポン金融ウラの裏」は原則、週1回の掲載です。

浪川攻

浪川攻

金融ジャーナリスト

1955年、東京都生まれ。上智大学卒業後、電機メーカーを経て、金融専門誌、証券業界紙、月刊誌で記者として活躍。東洋経済新報社の契約記者を経て、2016年4月、フリーに。「金融自壊」(東洋経済新報社)など著書多数。

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