
街を歩いていても、満員の通勤電車で立っていても、夜に居酒屋で酒を飲んでいても、突然に暴力が噴出する予感にかられることがある。誰か知らない人が急に刃物を出して暴れるのではないか、ビール瓶で殴り合いが始まるのではないか、網棚のカバンが爆発するのではないか。
暴力の予感は「他者」だけではない。正直に白状すると私自身の内にも、うずくような衝動を感じることがある。
幸いにテロに出くわすことも、自分が暴力の当事者になることも、今のところない。酒場ではみんな和気あいあいと飲んでいるし、私自身、嫌な目にあっても、笑顔でうなずくことができている。
この記事は有料記事です。
残り1181文字(全文1449文字)
投稿にはログインが必要です。
重里徹也
文芸評論家、聖徳大教授
1957年、大阪市生まれ。大阪外国語大(現・大阪大外国語学部)ロシア語学科卒。82年、毎日新聞に入社。東京本社学芸部長、論説委員などを歴任。2015年春から聖徳大教授。著書に「文学館への旅」(毎日新聞社)、共著に「村上春樹で世界を読む」(祥伝社) などがある。