
ナイジェリア政府高官を名乗る人物からある日突然メールが届き、「あなたは6500万ドル(72億円)を王子から相続することになりました。送金手数料を支払っていただければ振り込みます」と書かれていたとしよう。読者なら、どう対応されるだろうか?
2005年、米国中西部のカンザス州最大の都市ウィチタ(人口39万人)で便利屋を営む77歳の男性は、そうしたメールを自分のフリーメールアカウントで受け取った。当初、その男性は冗談か詐欺と思ったが、興味をそそられ、返信することにした。それから3年に及ぶ長いメールのやりとりが始まった。
メールの送り主は、言葉たくみに数日間かけてその男性に相続は“本物”だと説得した。多額の国際送金には複雑な法制度への対処と承認のための複数の書類が必要であり、数千ドル(数十万円)の送金手数料がかかるとのことだったので、男性は支払った。
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松原実穂子
NTTチーフ・サイバーセキュリティ・ストラテジスト
早稲田大学卒業後、防衛省で9年間勤務。フルブライト奨学金により米ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院で修士号取得。その後、米シンクタンク、パシフィックフォーラムCSIS(現パシフィックフォーラム)研究員などを経て現職。国内外で政府、シンクタンクとの意見交換やブログ、カンファレンスを通じた情報発信と提言に取り組む。