職場のトラブルどう防ぐ?

「固定残業代で給料変わらず」23歳新卒女性の不満

井寄奈美・特定社会保険労務士
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 A子さん(23)は今春大学を卒業し、従業員数約80人の機械卸会社に入社しました。3カ月の試用期間を終え、7月から営業課に正式配属されました。それ以降、定時に終業することはほとんどありません。会社は「固定残業代」制度を導入しており、残業時間の長短に関わらず毎月の給料額が同じであることに、疑問を感じています。

いくら残業しても給料が変わらない

 会社の就業時刻は、午前8時30分から午後5時30分です。試用期間中は定時に終業していましたが、配属された営業課では、メンバーが午後7時ごろまで誰も帰りません。A子さんは内勤で、主な業務は受注処理です。終業時刻を過ぎても、業務指示が出ることもあり、課内には退勤しづらい雰囲気があります。

 終業後に予定がある時は、あらかじめ上司に伝えておくとなんとか午後6時には職場を出られました。しかし「新人のくせに……」と周囲から思われているような気がして、平日の夜はなるべく私的な約束をしないようになりました。

 A子さんは入社時に、「会社は固定残業代を導入している」と説明されました。新入社員は基本給が17万円で、固定残業代が月35時間分で4万4000円です。1カ月の就労日数は22日程度なので、1日当たり約1.5時間分の残業が想定されています。そのため、営業課では午後7時までの残業が慣習となっているようでした。

 A子さんは午後7時前に退勤することもありますが、たいていは午後7時を過ぎてしまいます。月に数回は退勤時刻が午後10時ごろになることもありました。残業時間は月35時間以内に収まっているとは思えませんが、毎月の給料は変わりません。

上司は「早く帰りたければ、帰っていいよ」

 ある時、A子さんは上司に残業時間のことを相談しました。すると「私としては残業命令を出しているつもりはない。早く帰りたければ、帰っていいよ。その代わり、自分の担当業務はきちんと終わらせてからにしてほしい」と言われました。

 A子さんは入社して間もないため、担当業務をこなすためには先輩の手助けが必要です。先輩は主に外勤のため、帰社するのが午後5時を過ぎることが多く、その後は他部署との連絡などがあります。A子さんが先輩から助力を得られるのは早くて午後6時すぎで、定時に帰るのは難しい状況です。

 A子さんは仕事を早く覚えたいと思っており、残業すること自体に不満はありません。しかし、プライベートの時間を犠牲にして仕事をしているのに、いくら残業しても給料が変わらないことに納得がいかない気持ちです。

固定残業代の仕組みと意義

 固定残業代は、毎月一定時間数の残業があるとみなして、その分の残業代を固定給として毎月支給するものです。「みなし残業代」と呼ばれることもあります。会社によっては、「業務手当」など他の名称にしているケースもあります。名称は何であれ、就業規則(賃金規定)や雇用契約書(労働条件通知書)に、「固定残業代制度」を導入していることを明示し、従業員に説明しておく必要があります。

 会社は、従業員が一定の残業時間数を超える残業をした場合は、別途計算して追加の残業代を支払わなければなりません。また、固定残業代を支払っていれば、残業時間数の管理をしなくてよいわけではありません。

 従業員に時間外労働を命じることができる具体的な事由は、時間外や休日労働を規制する労働基準法36条に抵触しないように締結する「36(サブロク)協定」に記載しておく必要があります。36協定は、従業員の過半数の代表か過半数の労働者が加入する労働組合と結んで労働基準監督署に届け出をしておかなければなりません。

 一方、従業員は固定残業代が支給されるという理由で、その時間分の残業を必ずしなければならないというわけではありません。

 A子さんの事例では、従業員の残業時間が固定残業代として想定する月35時間を超え、労働時間の管理もされていないようです。また、終業時刻以降に業務指示が出ています。会社と上司は、指示の仕方の見直しやA子さんのフォローなどをする必要があります。そして労働時間管理を徹底し、残業時間が月35時間を超過する分には、別途残業代を支払わなければなりません。

 現在、政府は働き方改革を進め、労働時間数の短縮に取り組んでいます。固定残業代制度自体は一概に否定されるものではありませんが、仕組みと意義を理解して運用しなければ、従業員の健康を損なったり、不満を抱かせたりしかねません。

 固定残業代として支払う残業時間数は会社が自由に決められます。ただし、労基法は期間に応じて残業の限度時間の基準を定めており、1カ月の限度時間は45時間です。これを超える時間数とすることは、長時間労働を前提とするので避けるべきです。

 <「職場のトラブルどう防ぐ?」は原則金曜日に掲載します>

井寄奈美

特定社会保険労務士

大阪市出身。2015年、関西大学大学院法学研究科博士前期課程修了。現在、大阪大学大学院法学研究科博士後期課程在籍中(専攻:労働法)。01年、社会保険労務士資格を取得。会計事務所勤務などを経て06年4月独立開業。井寄事務所(大阪市中央区)代表。著書に『トラブルにならない 小さな会社の女性社員を雇うルール』(日本実業出版社)など。http://www.sr-iyori.com/