週刊エコノミスト・トップストーリー

ノーベル経済学賞の米教授2人「反トランプの素顔」

エコノミスト編集部
  • 文字
  • 印刷
ローマー氏(左)とノードハウス氏
ローマー氏(左)とノードハウス氏

 今年のノーベル経済学賞は、ウィリアム・ノードハウス米エール大教授(77)とポール・ローマー米ニューヨーク大教授(62)の2人に授与されることが発表された。経済成長に、気候変動やイノベーション(技術革新)が与える影響を分析した功績が評価された。2人の素顔とは。週刊エコノミスト10月23日号よりお届けする。

ローマー教授から思わぬ提案

 「自分の研究費を削って、君の生活費を出す算段をしたから、私の近くにいたらどうか」

 今年のノーベル経済学賞に輝いた米ニューヨーク大学のローマー教授から、こんな提案を受けた日本の経済学者がいる。早稲田大学の佐々木宏夫教授だ。

 佐々木氏は1982年から87年にかけて、米ロチェスター大学大学院でローマー氏から指導を受けて博士号の取得を目指したが、博士論文を仕上げる最後の5年目に資金に行き詰まった。父を早く亡くし、経済的な問題から米国で研究を続けられなくなったのである。一度、帰国して博士論文を仕上げて、面接を受けに戻ろうと考え、ローマー氏に伝えると、自分の研究費で米国に残って博士号を取るよう思いもよらない提案を受けた。

ニューヨーク大学
ニューヨーク大学

 驚いた佐々木氏が「迷惑をかけたくない」と戸惑うと、ローマー氏はこう語りかけたという。

 「研究費が減ることはハッピーなことではない。しかし、これは選択の問題で、学生の君のこれからの人生と、私の1年を比べたとき、どちらが重要か」

 半年間、佐々木氏はローマー氏の支援を受けながら無事、博士号を取得。「今も感謝しかない。誠実で学問に対して真面目であり、また、教育者でもある」(佐々木氏)。

 クール・ヘッド、ウオーム・ハートを地で行くローマー教授。技術革新が経済成長の源泉とする「内成的成長論」を確立させ、それが今回評価された。

環境経済学で初の受賞

 ローマー氏は記者会見で、「グローバル化とは単なるモノの交易ではなく、アイデアの共有だ」と述べて、保護主義的なトランプ政権を批判した。

 もう1人の受賞者は、米エール大学のノードハウス教授。同教授は温暖化ガスの排出に課税する「炭素税」の提唱者としても知られる。環境問題を定量的に分析する環境経済学の第一人者で、同分野でのノーベル経済学賞受賞は初めて。

エール大学
エール大学

 ノードハウス氏も、パリ協定(地球温暖化対策の国際的な枠組み)の離脱を表明し、気候変動や温暖化に否定的なトランプ氏への不満をにじませた。「米国でこれほど環境政策や気候変動政策への敵視があるのは極めて異常だ」

 温暖化分析が専門の武田史郎・京都産業大学教授は「ノードハウス氏の業績は、経済活動によって二酸化炭素の排出量が増加し、気温上昇や気候変動を引き起こすという観点から、長期のマクロ経済モデルに気候変動を組み合わせて分析した点にある」と指摘。

 「トランプ氏は今までの科学的研究を信用していないが、それを(ノーベル賞の授与で)評価するというのはメッセージ性があると思う」と話す。

 また、有村俊秀・早稲田大学教授(環境経済学)は「ノードハウス氏は、気候変動が生活にマイナス影響を及ぼすことをモデルに取り入れて、地道に分析してきた。最近の日本で起きている豪雨や洪水などが物流や経済活動に与える影響は大きく、そういう側面を表している」と語った。

持続可能性ある成長をどうつくるか

 一方、ローマー氏は本誌18年1月2・9日合併号のインタビューで、「人々の相互協力が、経済成長の重要な原動力だ。知識が国際的に分散するのを妨げるのは成長の阻害要因だ」と述べて、当時から自国の産業保護よりも知識の拡散を訴えていた。

 スウェーデン王立科学アカデミーは2人の授賞理由として、「持続可能性のある経済成長をどう創造していくかという現代社会の最も基本的かつ切迫した問題に取り組んだこと」を挙げた。

    ◇    ◇

 この記事は、週刊エコノミスト10月23日号の記事をウェブ用に編集したものです。連載「週刊エコノミスト・トップストーリー」は原則、毎週水曜日に掲載します。

<週刊エコノミスト10月23日号>

エコノミスト編集部

藤枝克治編集長率いる経済分野を中心として取材、編集するチーム。経済だけでなく社会、外交も含め幅広く取材する記者の集団であり、各界の専門家にコラムや情報提供を依頼する編集者の集団でもある。