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白川前日銀総裁が語った「金融緩和の効果長続きせず」

エコノミスト編集部
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記者会見する白川方明前日銀総裁
記者会見する白川方明前日銀総裁

 前日銀総裁の白川方明(まさあき)氏が10月22日、著書刊行を機に記者会見に臨んだ。在職中、金融緩和に消極的と非難を浴びた白川氏。異次元緩和でいまだ2%の物価目標を実現できていない現状を前に語ったこととは--。週刊エコノミスト11月6日号よりお届けする。【毎日新聞経済部記者・坂井隆之】

800ページの大著「中央銀行」

 2013年3月の退任以来、取材に一切応じてこなかった白川氏だが、39年の日銀生活を振り返る著書「中央銀行」(東洋経済新報社)の刊行に合わせて沈黙を破り、「セントラルバンカー」の職務にかけた思いを語った。

 日本記者クラブの満員の会場に姿を現した白川氏は、5年半ぶりの記者会見に「お世話になったマスコミ各社の方がいて、多少緊張しています」と笑みを見せた後、おなじみの訥々(とつとつ)とした口調で語った。

日本銀行本店
日本銀行本店

 白川氏が10月に上梓(じょうし)した「中央銀行」は、800ページ近い大著。入行から総裁退任までの経験や政策論に加え、多くのページを割いたのが「中央銀行のあるべき姿」に対する記述だ。この日の記者会見冒頭でも白川氏は、「中銀を巡る議論がもっと活発になった方がいい。そのための材料を提供するのが私の本だと思っている」と出版の狙いを語った。

 会見では、日本経済を巡る「根本的問題」を語る際にトーンを強めた。在任中、「日本経済の最大の問題はデフレ」と主張するリフレ派から、金融緩和に消極的との激しい批判を浴びた白川氏だが、この日は「物価が上がらないことが低成長の原因ではない」と真っ向反論。00~10年の実質国内総生産(GDP)成長率が先進国で下位にあった一方で、働き手1人当たりGDPではトップクラスだったデータを示し、「根本的問題は、急速な高齢化・人口減少と、そのことに社会・経済が適合できていないことだ」と訴えた。

金融緩和の副作用とは

 日銀の消極性を批判してきた一人である黒田東彦(はるひこ)・現総裁は、就任直後に空前の規模の「異次元緩和」を行ったが、いまだに目標とする物価上昇率2%を達成できていない。白川氏は「足元の金融政策にはコメントしない」と断りながらも「日本経済が直面している問題への答えが金融政策にはないことは、過去5年間の経験でも明らか」と強調した。

辞任を表明し記者の質問に答える白川氏(2013年2月)
辞任を表明し記者の質問に答える白川氏(2013年2月)

 また、金融緩和について、「本質的には、投資や消費という将来の需要を持ってくる政策であり、効果は長続きしない。時間を買っている間に本来やるべきことをやっていくしかない」と述べ、金融緩和への依存を戒めた。さらに、社会保障費削減などの痛みの伴う改革から目を背けさせたことが最大の副作用だと指摘し、「日本全体のエネルギーが本来向かうべきところでないところに向かった」と語った。

 白川氏は12年12月の政権交代で発足した安倍晋三政権との間で、2%目標を「できるだけ早期に達成する」との共同声明を結んだ。この声明について白川氏は、金融システムの安定や成長力強化の取り組みなど「日銀として譲れない基本原理はすべて書き込んだ」と明かし、「2%は経済の改革が進むことが前提。共同声明の精神に立ち返ることが必要だ」と政府などに改革努力を求めた。

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 この記事は、週刊エコノミスト11月6日号の記事をウェブ用に編集したものです。連載「週刊エコノミスト・トップストーリー」は原則、毎週水曜日に掲載します。

エコノミスト編集部

藤枝克治編集長率いる経済分野を中心として取材、編集するチーム。経済だけでなく社会、外交も含め幅広く取材する記者の集団であり、各界の専門家にコラムや情報提供を依頼する編集者の集団でもある。