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ノーベル賞本庶教授の免疫治療薬は「がん」とこう闘う

エコノミスト編集部
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 今年のノーベル医学生理学賞に輝いた本庶佑(ほんじょ・たすく)京都大学特別教授らが道を開いた「免疫療法薬」は、がん治療を大きく変えつつある。週刊エコノミスト11月13日号の巻頭特集「がんに勝つ薬」よりダイジェストでお届けする。【ジャーナリスト・村上和巳】

抗がん剤は全身を攻撃

 がんの治療では長らく「手術」「放射線」「抗がん剤」が三大治療と呼ばれてきた。このうち、手術と放射線は、がんができたところをピンポイントに治療するため「局所療法」と呼ぶ。一方、がんが特定の臓器から他の臓器などへ広がった場合には、手術や放射線では対処不能になる。そこで抗がん剤を投与し、薬の成分を血液の循環によって全身に送ることで広い範囲のがんを攻撃する。

 早期がんでも手術後の再発予防のために抗がん剤を投与することはある。だが、一般にはがんの進行とともに局所療法から抗がん剤へ移行していき、抗がん剤に至ると、がんを完全になくしてしまうことはほぼ不可能になる。

 そこで2014年に新たに登場したのが、免疫チェックポイント阻害剤と呼ばれる薬による治療法だ。

 ヒトの身体にとって「異物」であるがんは、免疫細胞が正常に働けば排除される。ところが、最終的にヒトの免疫細胞はがんに負けてしまう。免疫細胞を刺激して強化したり、あるいは体外で増やした免疫細胞を人に投与したりする治療法も試みられてきたが、目立った治療効果は得られなかった。

免疫細胞の働きを助ける薬

 がんに対して免疫細胞が負けてしまう謎を解き明かしたのが、本庶佑氏らだった。

 本庶氏らは免疫細胞表面にある免疫が過剰に働くことを抑える分子「PD-1」を発見。がんは細胞の表面に「PD-L1」という分子を作り、これが免疫細胞のPD-1に結合することで、免疫細胞によるがんへの攻撃にブレーキがかかる事実も明らかにした。このPD-1のような分子は「免疫チェックポイント分子」と呼ばれる。

 この発見を受けて、人工的に製造した抗体を医薬品としてヒトに投与してPD-1とPD-L1の結合を阻止できれば、免疫細胞の攻撃でがんを排除できるかもしれないという仮説が生まれた。この仮説を基に開発されたのが、オプジーボをはじめとする「免疫チェックポイント阻害剤」だ。

 免疫チェックポイント阻害剤は薬であり、注射により全身にいきわたらせるという意味では全身療法の抗がん剤の一種と言えるかもしれない。だが、薬が作用する対象が大きく異なる。抗がん剤ががんそのものを攻撃するのに対し、免疫チェックポイント阻害剤は、あくまで免疫細胞の働きを助けるだけ。このことから、免疫チェックポイント阻害剤は、抗がん剤とは別に分類され、手術、放射線、抗がん剤と並ぶ“第4の治療”と呼ばれている。

 免疫チェックポイント阻害剤が、がん治療にもたらした衝撃は大きく、現在も薬の開発が続いている。米調査会社BCCリサーチでは、免疫チェックポイント阻害剤の世界市場は18年の149億ドル(約1兆7000億円)から5年間で倍増し、23年には293億ドルに拡大すると試算している。

ステージ別の治療法

 免疫チェックポイント阻害剤の登場により、治療はどのように変わったのか。肺がんの約85%を占める非小細胞がんを例に説明する。

 非小細胞肺がんでは、病気の進行度合いにより、ステージ1~4に分類される。極めて大ざっぱに分類をすると、ステージ1はがんが小さめで、肺のみにとどまっている状態、ステージ2は肺のがんが大きめで近くのリンパ節に転移がある、ステージ3はやや遠くのリンパ節までがんが転移している、ステージ4はがんの大きさにかかわらず、他の臓器に転移があるものとなる。

 おおむねステージ1~2、そして3の初期は手術でがんや周辺のリンパ節を取り除き、再発の可能性がある場合は手術後に抗がん剤を投与する。ただ、手術後に肺機能が大きく低下する恐れがある場合や、あるいは患者本人の体力が手術に耐えられないなどの事情がある場合は放射線で治療をする。

 ステージ3で手術が不可能で患者に体力がある場合は、がんの消失を狙って抗がん剤投与と放射線治療を同時に行う化学放射線療法、あるいは放射線治療のみを行う。患者の体力がない場合などは抗がん剤治療のみ。ステージ4では、もはや根治は不可能なため、抗がん剤治療のみで延命を図ることになる。

治療段階の最後の選択肢

 免疫チェックポイント阻害剤は、こうしたこれまでの治療に新たな選択肢として加わることになる。早い場合ではステージ3の化学放射線療法後に再発予防を目的に使うことができる。

 また、ステージ4では、個々の患者のがんの特性に応じて延命の効果が科学的に証明されている薬(併用を含む)は2~3種類しかなかった。患者はこのうちのある薬を投与し、それが無効になると別の薬に切り替え、この選択肢が尽きると多くの場合はそこで事実上、治療は終了するしかなかった。

 ここに新たな選択肢として免疫チェックポイント阻害剤が加わった。免疫チェックポイント阻害剤を投与し効果が認められた患者の中には、画像診断でがんが見えなくなる、がんがそれ以上大きくならない、などの状態を長期間維持できていることもある。これまで完治不可能だった患者が、完治する可能性も指摘されている。

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 この記事は、週刊エコノミスト11月13日号の巻頭特集「がんに勝つ薬」をウェブ用に編集したものです。連載「週刊エコノミスト・トップストーリー」は原則、毎週水曜日に掲載します。

<週刊エコノミスト11月13日号>

エコノミスト編集部

藤枝克治編集長率いる経済分野を中心として取材、編集するチーム。経済だけでなく社会、外交も含め幅広く取材する記者の集団であり、各界の専門家にコラムや情報提供を依頼する編集者の集団でもある。