熊野英生の「けいざい新発見」 フォロー

シニアを安く働かせる「生涯現役」というスローガン

熊野英生・第一生命経済研究所 首席エコノミスト

 安倍晋三首相が3年間の任期延長を決め、そこで年金受給開始年齢を70歳超に選択できるように年金改正する方針を明らかにした。「生涯現役」というスローガンの下、年金制度を見直すというのである。この方針を聞いて、現実で起きていることとは正反対ではないかと首をかしげた人は多いだろう。

繰り下げ支給を望む人はいない

 なぜなら、現在厚生年金は、受給開始年齢を繰り下げる人よりも、65歳よりも早くもらいたいと思う人が圧倒的に多いからだ。

 厚生労働省「厚生年金保険・国民年金保険事業の概況」(2016年度)では、繰り上げ支給を選んでいる人は34.1%である。実に、3人に1人という多さである。逆に、繰り下げ支給は1.4%とわずかだ。ほぼゼロに近いと言える。ならば、国民のうち、70歳超に受給開始を遅らせたいと希望する人はゼロではないか。何のための年金改革なのかと失望を禁じ得ない。

この記事は有料記事です。

残り862文字(全文1245文字)

第一生命経済研究所 首席エコノミスト

1967年山口県生まれ。横浜国立大学経済学部卒業。90年、日本銀行入行。調査統計局などを経て、2000年、第一生命経済研究所入社。11年4月から現職。専門は金融政策、財政政策、金融市場、経済統計。