
日本文学が不振をかこっていた1990年代、ジャーナリズムはさまざまなところで新しい才能を求めていた。貧血気味の文壇を救ったものの一つが沖縄出身の作家たちだった。
又吉栄喜、目取真俊の2人が芥川賞を受賞し、崎山多美や長堂英吉といった書き手も注目された。いずれも沖縄で生まれ、沖縄に住む作家たちだった。
ここで大切なのは沖縄という土地の力だ。沖縄では、現代日本が直面しているさまざまな問題やテーマが、拡大鏡を通したようにあらわに見える。アメリカとの関係、悲惨な戦争の記憶、自然破壊、地域共同体の解体、アニミズム的な精神世界。すべてが手で触れられるように身近に感じられるのだ。
実はそれは東京でも大阪でも、日本人全体が直面している問題でありテーマでもあるだろう。近くに米軍基地がなかったり、都市生活の騒がしさにまぎれたりして、見えにくくなっているだけのことだ。
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重里徹也
文芸評論家、聖徳大教授
1957年、大阪市生まれ。大阪外国語大(現・大阪大外国語学部)ロシア語学科卒。82年、毎日新聞に入社。東京本社学芸部長、論説委員などを歴任。2015年春から聖徳大教授。著書に「文学館への旅」(毎日新聞社)、共著に「村上春樹で世界を読む」(祥伝社) などがある。