
<事例編>
弱者が弱者に怒りをぶつけることは、日本社会の至る所で行われている。しかも、弱った者が自分より弱い者に怒りの矛先を向けてたたく。たたかれた者は、さらに弱い者をたたく。だから、攻撃の連鎖が止まらない。
たとえば、多くの企業で増えている非正規社員は、正社員との給与や待遇の格差に怒りを覚えても、正社員にぶつけることはできない。そんなことをすれば、職を失いかねないからだ。そのため、腹の中にたまった怒りを自分と同様に不安定な立場にある非正規社員にぶつける。
企業でメンタルヘルスの相談に乗っていると、そういうケースにしばしば遭遇する。一番驚いたのは、40代の女性の派遣社員が、あるパート社員の作成した書類のミスを細かく指摘して厳しく叱責したうえ、その書類を正社員の目の前に置いて「ここもできてない、ここもできてない」と指さしながら、いちいちあげつらったときだ。
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片田珠美
精神科医
広島県生まれ。大阪大学医学部卒。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。パリ第8大学精神分析学部で学ぶ。精神科医として臨床に携わり、社会の根底に潜む構造的な問題を精神分析的視点から研究している。「他人を攻撃せずにはいられない人」(PHP新書)、「高学歴モンスター」(小学館新書)など著書多数。
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