
芥川賞を受賞した上田岳弘の「ニムロッド」(講談社)を面白く読んだ。この時代を生きていて感じる孤独やむなしさ、切なさが鮮やかに表現されていたからだと思う。さっぱりとした文章にも好感を持った。
主な登場人物は3人。主人公の「僕」はサーバーを保守したり管理したりする会社の社員だ。38歳。仮想通貨「ビットコイン」の採掘を社長から命じられている。仮想通貨の取引履歴を記録することで報酬を得る仕事だ。
主人公によくメールを送ってくるのが「荷室仁」(「ニムロッド」と自称)という同じ会社の先輩。小説家をめざしていたが、新人賞の最終選考に3回落ちたこともあって、うつ病になり、実家のある名古屋に転勤した。
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重里徹也
文芸評論家、聖徳大教授
1957年、大阪市生まれ。大阪外国語大(現・大阪大外国語学部)ロシア語学科卒。82年、毎日新聞に入社。東京本社学芸部長、論説委員などを歴任。2015年春から聖徳大教授。著書に「文学館への旅」(毎日新聞社)、共著に「村上春樹で世界を読む」(祥伝社) などがある。