
「82年生まれ、キム・ジヨン」(斎藤真理子訳、筑摩書房)は韓国の女性作家チョ・ナムジュによる小説だ。韓国で100万部を突破する大ベストセラーになり、日本でも話題を集めた。今も多くの書店で平積みになっている。
韓国において女性が置かれている状況を冷静に描き出した作品で、理不尽に差別されていることへの怒りがひしひしと伝わってくる。それだけではない。女性差別の根深さは単に社会の矛盾を示すだけでなく、人々の心の深いところにある利己意識や既得権への執着、醜悪な欲望と気高い勇気をも照らし出していく。
そして、小説の舞台は韓国なのに、そのまま日本にもあてはまると思われる記述が多いのも印象的だ。共感する人が多いのもうなずける。
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重里徹也
文芸評論家、聖徳大教授
1957年、大阪市生まれ。大阪外国語大(現・大阪大外国語学部)ロシア語学科卒。82年、毎日新聞に入社。東京本社学芸部長、論説委員などを歴任。2015年春から聖徳大教授。著書に「文学館への旅」(毎日新聞社)、共著に「村上春樹で世界を読む」(祥伝社) などがある。