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西鉄とトヨタが取り組む福岡市「MaaS実証実験」ルポ

エコノミスト編集部
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街のにぎわいにMaaSは役立つか(福岡市・天神)
街のにぎわいにMaaSは役立つか(福岡市・天神)

 いま注目されている「MaaS」(モビリティー・アズ・ア・サービス)。情報通信技術によって「移動」を便利にする。福岡市で行われている実証実験をリポート。週刊エコノミスト7月30日号の巻頭特集「乗り遅れ厳禁! 移動革命」よりダイジェストでお届けする。【エコノミスト編集部・大堀達也】

鉄道・バス・タクシーなどの組み合わせ

 日本でMaaSを実際に体験できる場所の一つに福岡市がある。同市を拠点とする私鉄大手の西日本鉄道(西鉄)とトヨタ自動車が協力し、昨年11月からMaaSアプリ「マイルート」の実証実験を行っている。その使い勝手を試すために7月初旬、同市を訪れた。マイルートは鉄道、バス、タクシー、フェリー、レンタカー、レンタル自転車などを組み合わせて最適な移動経路を表示する。

 JR博多駅(福岡市博多区)でアプリを立ち上げた。まず、「ルート検索」で目的地を入力しようとしたが、福岡は観光スポットが多く選択に迷う。ふと目に付いたアプリの「スポット」というボタン。押してみると「特集」として福岡で開催中のイベントの一覧が表示された。その中にあった「福岡城下町 七夕まつり」が面白そうだったので選択すると、イベントの詳細とともに「目的地に設定」というボタンが現れた。

アプリ限定の「バス6時間券」

 ボタンを押すと現在地の博多駅から、会場の舞鶴公園(中央区)までの複数の移動手段が提案された。舞鶴公園は博多駅から西に約3.5キロの距離にある。記者は料金が最も安いバスを選ぶことにした。移動時間は一番長いが、その分、福岡の街並みを車窓越しに楽しめると思ったからだ。

 
 

 バスの移動は土地勘のない人にとっては難易度が高い。しかし、マイルートでは乗車地点の博多駅近くにある「博多バスターミナル」までの経路が地図で表示され、実際に乗る建物1階の「56系統」の乗り場まで確認できた。

 西鉄バスは運賃後払い。移動中、アプリからバスのチケット購入機能を試してみた。「福岡市内フリー乗車券」は1日乗り放題の「1日券」(900円)と、6時間限定で乗り放題の「6時間券」(600円)の2種類があり、6時間券を選ぶ。あらかじめクレジットカードを登録しておいたので「購入」ボタンを押し、続いて「利用開始」ボタンを押す。降車時にこれを運転手に見せる仕組みだ。

 6時間券は西鉄がマイルートのアプリ限定で新たに発売したチケットだ。出張や旅行で短時間滞在する人にも使いやすく、アプリなら画面に使用可能な残り時間をカウントダウン表示できる。

 西鉄によると、マイルートアプリの今年5月時点のダウンロード数は2万3000件以上。8割弱が地元の市民という。実証実験は当初、今年3月末までの予定だったが、想定を上回る利用に今年8月末までの延長を決めた。

バス乗車人員減少に危機感

 この日のマイルートでは、人気の「タピオカ」を食べられる市内の店舗などの情報も表示された。マイルートの実験を担当する西鉄まちづくり推進部の緒方伸州(のぶくに)課長は、「人が移動することで街を活気づけることがマイルートの狙い」と話す。マイルートでさまざまなイベントや店舗情報を表示できるのは、地域に密着して情報がふんだんに集まる交通事業者ならではの大きな特徴だ。

マイルートで購入可能な西鉄バスの「6時間券」の画面
マイルートで購入可能な西鉄バスの「6時間券」の画面

 人口158万人の福岡市。人口増加が続き、2015年の国勢調査では神戸市を抜いて政令指定都市で5位となった。しかし、西鉄の危機感は強い。鉄道やバスといった運輸業を中核に、不動産や流通、ホテルなど幅広い事業を展開する西鉄だが、運輸収入の6割強を占めるバス事業は18年度、乗車人員が前期比0.8%減少した。北九州市や福岡県南部などでもバス路線を展開するが、人口減少に見舞われるこうした地域の路線は厳しい環境に置かれている。

 問題意識を抱えていた西鉄に17年夏、トヨタから「福岡市でのMaaSの実証実験に協力してほしい」との相談があった。マイルートのアプリ開発・運営をトヨタが進めており、トヨタのレンタカー情報に加えて、西鉄が運行するバスの位置情報や西鉄グループの持つ店舗・イベント情報などを盛り込む方向で、プロジェクトがスタートした。

地元企業中心に40社が協力

 一方、トヨタは、マイルートの開発を同社内の「未来プロジェクト室」を中心に組織横断的に進めてきた。同室は2030年以降のトヨタのビジネスモデルを探る役割を担う。開発に企画段階から携わる天野成章(なりあき)イノベーショングループ長は、マイルートのパートナーに西鉄を選んだ理由について、「街づくりへの情熱にあふれている公共交通事業者だからだ」と話す。

 また、交通事業者が多ければその調整に手間取るが、福岡市では公共交通のおよそ7割を西鉄1社が担っており、調整を進めやすかったという事情もある。マイルートにはこのほか、アプリの利便性を高めるため、ジャパンタクシーやレンタル自転車、ルート検索、決済、街情報を扱う地元企業など約40社が協力している。

 マイルートを通したバスのフリー乗車券販売数は1カ月当たり約500枚、累計約3000枚に達し、「利用者の7割が満足と答えている」(西鉄の緒方氏)など、一定の成果も上がっている。西鉄とトヨタは実証実験の結果を見て今後、マイルートを恒常的なサービスとするかどうかを検討する。福岡市が日本のMaaSのモデルとなる日はそう遠くないかもしれない。

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 この記事は、週刊エコノミスト7月30日号の巻頭特集「乗り遅れ厳禁! 移動革命」をウェブ用に編集したものです。連載「週刊エコノミスト・トップストーリー」は原則、毎週水曜日に掲載します。

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エコノミスト編集部

藤枝克治編集長率いる経済分野を中心として取材、編集するチーム。経済だけでなく社会、外交も含め幅広く取材する記者の集団であり、各界の専門家にコラムや情報提供を依頼する編集者の集団でもある。