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米国利下げ「金融緩和頼み」の景気拡大はもう限界

エコノミスト編集部
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 世界経済の先行き不透明感から、主要国の金融政策は緩和競争の様相を呈してきた。だが「延命」には限界がある。利下げで景気は上向くのか。週刊エコノミスト8月13・20日号の巻頭特集「世界景気の終わり」よりダイジェストでお届けする。【エコノミスト編集部・岡田英/白鳥達哉】

「低インフレ病に予防ワクチンを」

 米連邦準備制度理事会(FRB)は7月30、31日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、米政策金利の0.25%の引き下げを決定。金融危機直後の2008年12月以来、約10年半ぶりの利下げで、緩和方向に大きくかじを切った。

 「私の妻は看護学の教授だが、後で病気にかかるより、予防接種をしておくべきだと言う。金融政策も同じだ」。決定に先立つ7月18日、FOMCの副議長を務めるニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁は講演で家族の話を引き合いに出し、「予防的利下げ」の必要性を強く訴えた。「低インフレ病の悪化を予防するワクチンを経済に投与すべきだ」とまで踏み込み、ニューヨーク連銀事務局が火消しに追われたほどだった。

 世界景気をけん引する米国の景気拡大は7月に史上最長の11年目に突入したばかり。失業率は約50年ぶりの低水準でほぼ完全雇用の状態にある。だが、賃金は伸びなやみ、個人消費支出(PCE)物価指数の上昇率はFRBが目標とする2%に届かない。設備投資にも陰りが見え、米景気の減速感は否めない。

 
 

過去には予防的利下げで株価上昇も

 では果たして利下げで、景気は上向くのか。米国の過去30年の利下げの歴史をひもとくと、景気後退を回避した予防的利下げは、1995年と98年の2回ある。いずれもグリーンスパン議長の時代だ。

 1回目の95年7月は、FRBが短期間での大幅な利上げをやめて株価が上昇。2回目の98年9月は、ロシア経済危機を受けて米大型ヘッジファンドが破綻し、日米欧の株価が急落する中で0.25%の小幅利下げを重ねて株価を大きく戻し、グリーンスパン議長の名声を高めた。

 スイス金融大手UBSの分析では、予防的利下げ時の株価の推移(84年、95年、98年の平均値)を見ると、利下げ決定後から伸び続け、約10カ月後にはピークの25%増近くまで上昇。これに対し、景気後退を伴った利下げ(89年、01年、07年の平均値)では最初の約1カ月間は上昇するものの、40~60日(2カ月)後には低迷した。青木大樹・UBSウェルス・マネジメント日本地域最高投資責任者は「今回の利下げが本当に『予防的』なのか、あるいは景気後退を伴うのかは今後約2カ月の株価の推移で判断できる」と話す。

 ただ、株価は「緩和相場」で沸いても、米中関税の影響や減税効果が薄れていくことで、成長失速は止まらないとの見方は根強い。弊誌(週刊エコノミスト)が国内外の主要調査・金融機関34社を対象に行ったアンケートでも、来年3月末にかけて「利下げや株価高騰は好材料だが一時的。高い成長は持続可能ではない」(アジア太平洋研究所)、「景気後退は20年中には陥らないと見ているが、徐々に確率は上昇してきている」(JPモルガン証券)と見る向きが目立つ。

 
 

危機が訪れても打つ手は限られる

 市場は年内の追加利下げを織り込む。低金利は、投資マネーを信用力の低い企業に向かわせ「ゾンビ企業」を増やし、債務を膨らませるリスクをはらむ。株価が過熱していく一方、債務バブルが膨らめばいずれ崩壊する。UBSの青木氏は「米景気は1年は持つだろうが、大統領選後あたりから上がり過ぎた株価の反動が出かねない」と警鐘を鳴らす。

 しかし、危機が訪れても取れる手は限られる。FRBは過去の景気悪化局面で、5~6%もの政策金利引き下げで対応してきたが、現在は2%ほどしかない。米連邦政府の債務は過去最大に膨らんでおり、財政政策にも限界がある。

 マーケット・アナリストの豊島逸夫氏は「残るは構造改革による労働生産性向上だが、何年もかかる。対応できる金融政策、財政政策がほぼ出尽くしてしまっているのが、米国経済の最大の脆弱(ぜいじゃく)性だ」と指摘する。

 欧州中央銀行(ECB)も9月に利下げが確実視され、日銀も追加緩和を辞さない構えだ。金融政策に依存した「マーケットの宴(うたげ)」はいつか終わる。そのとき、訪れる危機を乗り切るには難しいかじ取りが強いられそうだ。

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 この記事は、週刊エコノミスト8月13・20日号の巻頭特集「世界景気の終わり」をウェブ用に編集したものです。連載「週刊エコノミスト・トップストーリー」は原則、毎週水曜日に掲載します。

週刊エコノミスト8月13・20日号

 
 

エコノミスト編集部

藤枝克治編集長率いる経済分野を中心として取材、編集するチーム。経済だけでなく社会、外交も含め幅広く取材する記者の集団であり、各界の専門家にコラムや情報提供を依頼する編集者の集団でもある。