藻谷浩介の世界「来た・見た・考えた」

シンガポール「中央緑地帯」を歩く“癒やし”の時間

藻谷浩介・地域エコノミスト
  • 文字
  • 印刷
マクリッチ貯水池の湖畔遊歩道はシンガポール屈指の癒やしの自然空間(写真は筆者撮影)
マクリッチ貯水池の湖畔遊歩道はシンガポール屈指の癒やしの自然空間(写真は筆者撮影)

 低い丘の連なるシンガポール島の中央部には、三つの貯水池を囲んで、広大な緑地が保全されている。その中の南の5分の1ほどには遊歩道が整備されており、コースによっては数時間も、ひたすら森の中だけを歩くことが可能だ。都市国家のど真ん中にいることを忘れる、中央緑地帯の魅力とは。

 19世紀初頭に英国人ラッフルズ卿が植民を始めるまでは、熱帯雨林に覆われていたシンガポール。しかしその後のプランテーション農業の試行錯誤の中で、そのほとんどすべてが一度は焼き払われてしまった。何を作っても実らない痩せた土壌ゆえ、それらの多くはまた緑の森に戻ったのだが、もともとあった生物多様性は失われてしまった。唯一開発を免れたのが、たった1キロ四方ほどの「ブキ・ティマの丘」である。

 ブキ・ティマの丘は標高164メートル。シンガポール最高地点である。急斜面に囲まれているため農園化を免れた。この猫の額ほどの広さで残った熱帯雨林に生息する植物の種類は、北米大陸の全植物種の2倍にもなるのだと、筆者がシンガポール滞在中に読んだ「シンガポール大辞典」には書いてあった。

この記事は有料記事です。

残り2455文字(全文2922文字)

藻谷浩介

地域エコノミスト

1964年山口県生まれ。平成大合併前の約3200市町村のすべて、海外114カ国を私費で訪問し、地域特性を多面的に把握する。2000年ごろから地域振興や人口問題に関して精力的に研究、執筆、講演を行う。著書に「デフレの正体」「里山資本主義」ほか多数。国内の鉄道(鉄軌道)全線を完乗した鉄道マニアでもある。