ベストセラーを歩く

小川洋子「小箱」子供たちの魂と共生する不思議な世界

重里徹也・文芸評論家、聖徳大教授
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 小川洋子は世界の片隅に隠れている小さな物語を探してきて、私たちに教えてくれる作家だ。そこには、忘れられた者、虐げられた者、小さな者、無口な者、何かの都合で話すことができない者たちが「ほんとうの物語」を知っていて、私たちに語りかけてくれるはずだという思想がある。

 小川は彼ら彼女らに寄り添って、耳を傾けて、小さな声、声なき声で発せられる小さな物語を受けとめ、それを小説に紡いでいく。この現実の向こうに、この現実を超えたところに、そういう物語世界が広がっていると実感することは、私たちの日々の生活に彩りや奥行きをもたらし、この味気ない現実を豊かにしてくれる。

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重里徹也

文芸評論家、聖徳大教授

1957年、大阪市生まれ。大阪外国語大(現・大阪大外国語学部)ロシア語学科卒。82年、毎日新聞に入社。東京本社学芸部長、論説委員などを歴任。2015年春から聖徳大教授。著書に「文学館への旅」(毎日新聞社)、共著に「村上春樹で世界を読む」(祥伝社) などがある。