名古屋市に「タキヒヨー」「瀧定(たきさだ)」という、二つの大きな繊維専門商社がある。両社はライバル企業でありながら、名古屋財界では共同歩調をとって活躍するほど結びつきが強い。よく似た名前からわかるように両社はもともと一家で、尾張藩の御用達を務めた瀧家が経営している。
豪農から絹織物の卸業へ
瀧家は、もとは尾張国古知野(愛知県江南市)の豪農だ。江戸時代中期に当主だった兵右衛門が京で呉服業を学び、帰郷して1751(宝暦元)年に絹織物の卸業を開業したのが祖。1771(明和8)年には絹屋と号し、周囲からは「絹兵」と呼ばれるようになった。
2代目の兵右衛門は、1825(文政8)年に名古屋城下東万町(名古屋市中区丸の内)に店舗を構えた。天保の大飢饉(ききん)のときに私財をなげうって窮民を救ったことから、1837(天保8)年に尾張藩主から名字帯刀が許されて正式に「瀧」を名乗り、尾張藩御用達も務めた。
この記事は有料記事です。
残り1072文字(全文1470文字)
投稿にはログインが必要です。
森岡浩
姓氏研究家
1961年、高知県生まれ。早稲田大学在学中に独学で姓氏研究を始める。文献調査やフィールドワーク、統計を用いた実証的手法を用いる。2017年4月からNHK「人名探究バラエティー 日本人のおなまえっ!」に出演。著書、多数。