職場のストレス・マネジメント術

「私がうつ病?」でも頑張りすぎた30代女性のその後

舟木彩乃・心理カウンセラー
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 今回は、「うつ病」と診断されたにもかかわらず、「自分には気合が足りない」と仕事を頑張り続けた女性のケースを取り上げます。

 鈴木さん(仮名、30代前半)は、大手文具メーカーの海外事業部に所属しています。同部には20人ほどのメンバーがいますが、鈴木さんは面倒な仕事を率先して引き受け、後輩の相談にも乗り、周りから頼りにされる存在です。上司であるA部長(男性40代後半)も彼女の働きぶりを評価し、来年には大きなプロジェクトのリーダーを任せることにしていました。

 うれしさの半面、鈴木さんは責任の大きさにプレッシャーも感じ、失敗はできないと仕事帰りも英会話スクールに通うなどして、新たなプロジェクトの準備を怠りませんでした。しかし、だんだん“いつもと違う”感覚を覚えはじめました。

 仕事に対して理由も分からず意欲がわかない日が出てくるようになり、好きな映画も見にいく気持ちが起こらなくなりました。さらに、睡眠が浅くなり、食欲がなくなって、食べたいものすら思いつかなくなることも。次第に外出することも面倒に感じるようになりました。

 このような状態が1カ月ほど続き、偏頭痛が頻繁に起こるようになったため、念のため知人に紹介された脳や内科の検査もできる心療内科を受診しました。診察の結果、身体に異常は見つからないものの、「うつ病」と診断され薬も出されました。主治医からはしばらく休職することを提案されましたが、鈴木さんは「自分に気合が足りないだけだ」と考え、診断結果を受け入れずに頭痛薬や睡眠導入剤だけを飲み、それまで通りの勤務を続けることにしました。

 うつ病は、意欲、食欲、睡眠欲などが低下し、抑うつ状態が続くだけでなく、頭痛など身体的な自覚症状を伴ったりもします。典型的なうつ病である「メランコリー型」は、さまざまな仕事や責務、役割に過剰に適応しているうちに脳のエネルギーが枯渇してしまう病気です(厚生労働省のメンタルヘルスサイト「こころの耳」)。

 周りから見て、鈴木さんは以前よりも余裕がなく、ケアレスミスも目立つようになっていました。心配したA部長が事情を聴いたところ、彼女は「大丈夫です」を繰り返すばかりでした。病気を受け入れられない、仕事への責任感、キャリアに傷をつけたくない……など、さまざまな思いがあったようです。しかし、とうとう心身ともに限界を感じた鈴木さんは、A部長にこれまでの経緯を話し、休職に入ることになりました。

 休職した鈴木さんは、周りに迷惑をかけたという自責の思いと、先行き…

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舟木彩乃

心理カウンセラー

 筑波大学大学院博士課程修了(ヒューマン・ケア科学博士)。カウンセラーとして8000人以上、コンサルタントとして100社を超える企業の相談に対応。一般企業の人事部などを経て、現在メンタルシンクタンク(筑波大学発ベンチャー企業)副社長。国家資格として公認心理師、精神保健福祉士、第1種衛生管理者、キャリアコンサルタントなど保有。著書に「『首尾一貫感覚』で心を強くする」(小学館新書)。