週刊エコノミスト・トップストーリー

「市民70%感染の可能性」メルケル首相発言で臨戦態勢

エコノミスト編集部
  • 文字
  • 印刷
3月14日、ドイツの一部のスーパーでは、市民の買いだめで保存食品の棚が空になった=熊谷徹氏撮影
3月14日、ドイツの一部のスーパーでは、市民の買いだめで保存食品の棚が空になった=熊谷徹氏撮影

 新型コロナウイルスが世界中に拡大している。欧州ではイタリアやスペインで急拡大する中、ドイツにも広がり始めた。どのような対応をしているのか。在独ジャーナリストの熊谷徹氏のルポを、週刊エコノミスト3月31日号(3月23日発売)の巻頭特集「コロナ恐慌」よりお届けする(感染者、死者数などは同誌発売前の数字)。

第二次大戦後最大の試練

 欧州で、新型コロナウイルスの急激な拡大が止まらない。この感染症は、欧州の社会と経済に深い傷を与え、第二次世界大戦後最大の試練の一つになりそうだ。

 朝8時にドイツ南部ミュンヘンの地下鉄に乗り込む。乗客はまばらだ。混雑が減った理由として、企業が社員にテレワーク(在宅勤務)を命じていることや、地下鉄での感染を避けるため多くの市民が車で通勤していることなどがあるが、それ以上に大きいのは、政府が3月13日に「過去2週間にイタリア、スイス、オーストリアに滞在した市民は、2週間にわたって自宅待機を」と勧告したことだ。

 各国は国境の閉鎖を始めている。ドイツやフランス、イタリアなどは入国審査なしで互いの国を行き来できるシェンゲン協定を結び、人の自由な移動を可能にしてきたが、「国境なき欧州」は未知の病原体の襲来の前に崩れ去った。

 ジョンズ・ホプキンス大学によると、3月16日の時点で、欧州での感染者数は4万人を超えている。感染者数の半分以上がイタリア(2万5000人)に集中しており、同国では1800人が死亡する悲惨な事態となっている。

地下鉄車内で(熊谷徹氏撮影)
地下鉄車内で(熊谷徹氏撮影)

手術延期や呼吸器購入も

 ドイツでは、5813人の陽性が確認され、13人が死亡している。メルケル首相が3月11日の記者会見で「ドイツ市民の60~70%が感染する可能性がある。ただしこの感染がどれくらいの期間に起こるかはわからない」と発言して以来、潮目が変わった。首相は集中治療室のキャパシティーを確保するために、緊急でない手術の延期を命じるとともに、「他人との接触を極力減らすように。国民各自が責任感のある行動を取ってもらいたい」と訴えた。これは事実上の緊急事態宣言だった。

 たとえば大半の州は一斉休校に否定的だったが、メルケル発言後は方針を転換し、休校に踏み切った。同国では共働きの夫婦が多いので、子どもを持つ市民たちは途方に暮れている。

 また、多くの州で映画館、バー、喫茶店、スポーツジムが閉鎖を命じられた他、50人以上が参加するイベントが禁止された。ライプチヒの書籍見本市が中止され、世界最大の工業見本市ハノーバー・メッセも4月から7月に延期。私が住むミュンヘンでもバイエルン州立歌劇場やコンサートホールが閉鎖された。企業でも出張を禁止したり、打ち合わせや研修をスカイプ会議に切り替えたりする動きが目立つ。メルケル発言以降は市民の不安が強まり、一部の店でスパゲティやコメ、トイレットペーパーの買いだめが始まった。

企業の部分的国有化も検討

 旅行業界やイベント業界では、資金繰りの悪化を訴える企業が増えている。政府は3月13日、コロナ危機の経済への影響を最小限にするためドイツ復興金融公庫(KfW)の企業への融資条件を緩和し、融資の総額を無制限にすると発表。納税延期や短時間労働制度の条件緩和、企業の部分的な国有化も検討している。第二次世界大戦後最大の企業支援プログラムだ。重症者の急増に備え、リューベックの医療機器メーカーから人工呼吸器を1万個購入。政界では連邦軍も検査や消毒などに投入するべきだという声が出ている。

 ドイツ人たちはイタリアのような事態が自国でも起きることを想定し臨戦態勢を整えつつある。

    ◇    ◇

 この記事は、週刊エコノミスト3月31日号の巻頭特集「コロナ恐慌」の記事をウェブ用に編集したものです。連載「週刊エコノミスト・トップストーリー」は原則、毎週水曜日に掲載します。

週刊エコノミスト3月31日号

 
 

エコノミスト編集部

藤枝克治編集長率いる経済分野を中心として取材、編集するチーム。経済だけでなく社会、外交も含め幅広く取材する記者の集団であり、各界の専門家にコラムや情報提供を依頼する編集者の集団でもある。