ベストセラーを歩く

“樺太に生きる民族”に光をあてた直木賞「熱源」

重里徹也・文芸評論家、聖徳大教授
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 歴史を眺める時には、さまざまな視点がある。そこから、いろいろな歴史小説が生まれる。

 権力のありようを探るのもその一つだ。たとえば、司馬遼太郎の多くの小説(たとえば、「国盗り物語」「新史太閤記」「翔ぶが如く」など)は、権力をめぐる人物群像を描いている。斎藤道三や豊臣秀吉や大久保利通の内面を描くことで、司馬は自身の史観を吐露しながら、明快に歴史の流れを描いている。権力を維持する人物より、奪取しようとする人物に筆をさくのが司馬の特徴だ。

 一方で、社会の片隅や周縁に生きた人物を描いて、歴史を照らし出すタイプの小説もある。この場合、政治の中央で何が繰り広げられているのかは、つぶさにはわからない。しかし、大きな時代の流れが末端にいる人々にどのような影響を与えたかは細部まで伝わってくる。端っこから光をあてることによって、時代全体が浮かび上がってくるという構造になっているのだ。

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重里徹也

文芸評論家、聖徳大教授

1957年、大阪市生まれ。大阪外国語大(現・大阪大外国語学部)ロシア語学科卒。82年、毎日新聞に入社。東京本社学芸部長、論説委員などを歴任。2015年春から聖徳大教授。著書に「文学館への旅」(毎日新聞社)、共著に「村上春樹で世界を読む」(祥伝社) などがある。