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ホーチミン「ベトナム戦争後」に根付いた日本人の物語

藻谷浩介・地域エコノミスト
日本の田舎町と見間違えるタイバンルン通りの裏路地。若い和僑が経営する飲食店が集まる(写真は筆者撮影)
日本の田舎町と見間違えるタイバンルン通りの裏路地。若い和僑が経営する飲食店が集まる(写真は筆者撮影)

ベトナム・ハノイとホーチミン編(5)

 ベトナム最大の都会・ホーチミンの高層ビルの展望台で、景色よりも窓の外に体を張ってぶらさがる清掃員との交歓に夢中になった筆者たち。その後、50年前の戦争の傷痕に触れ、若い「和僑(わきょう=日本を飛び出した個人事業者)」たちの活動を目にする。

衝撃の「戦争証跡博物館」

 ビテクスコ・ファイナンシャルタワーの展望台から降り、昼間のベンタイン市場で庶民の世界を再体験した筆者一行は、さらに北西にある水上人形劇の劇場を目指した。水上人形劇はベトナム北部で発達した伝統芸能で、ハノイとホーチミンに置かれた国立劇場は、日本でいえば歌舞伎座のような国際観光名所になっている。

 1996年、筆者は一度だけこの水上人形劇を鑑賞した。濁らせた水を地面に見立て、その下を通したさおと糸で水上に出た人形を操る。数分の演目が十数個続くが、いずれも伝統音楽に合わせた群舞だった。激しい動きで踊る人形たちに、言葉が通じずとも目がくぎ付けになるが、舞台の奥手にいる演者も、水面下の仕掛けも、一切見えない。手先が器用で根気強いベトナム人ならではの芸能である。

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地域エコノミスト

1964年山口県生まれ。平成大合併前の約3200市町村のすべて、海外114カ国を私費で訪問し、地域特性を多面的に把握する。2000年ごろから地域振興や人口問題に関して精力的に研究、執筆、講演を行う。著書に「デフレの正体」「里山資本主義」ほか多数。国内の鉄道(鉄軌道)全線を完乗した鉄道マニアでもある。