経済記者「一線リポート」

コロナ不況でも「雇用守る」トヨタ社長の経営哲学

大久保渉・毎日新聞経済部記者
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ライブ中継されたトヨタ自動車の2020年3月期決算説明会に出席した豊田章男社長=2020年5月12日、ユーチューブのトヨタ自動車公式チャンネルから
ライブ中継されたトヨタ自動車の2020年3月期決算説明会に出席した豊田章男社長=2020年5月12日、ユーチューブのトヨタ自動車公式チャンネルから

 「どんなに経営環境が厳しくても、石にかじりついて雇用を守り抜いてきた。膨大なサプライチェーン(部品供給網)と、そこで働く人たちの雇用を守り、日本の自動車産業の技術と人材を守り抜くことが重要だ」

 「人はコストではない。モノづくりを成長・発展させる原動力だ。私たちが守り続けてきたのは、世の中が困った時に必要なものをつくることができる技術と技能を習得した人材だ」

 トヨタ自動車の豊田章男社長が2020年3月期決算のオンライン会見で語ったスピーチが胸を打った。今は新型コロナウイルスで経済の先行きが見通せず、誰もが不安を抱える状況にある。その中で人々の雇用を守る意思を明確に示し、モノ作り企業のあるべき姿を熱のこもった言葉で伝えたからだ。

リーマン時は「派遣切り」

 08年のリーマン・ショックの際、自動車業界では「派遣切り」や「雇い止め」が横行し、社会問題となった。私は地方支局から東京本社経済部に異動した直後の09年夏、大手自動車メーカーに解雇された期間工の40代の男性を取材した。

 「忙しい時にかき集め、暇になったら有無を言わせず返却する。僕らはリース商品でしかないのか」。男性は淡々とこう語った。景気が良かった05年に月収手取り40万円という好条件で雇われ、不況になった途端、問答無用で解雇されたという。

 私が「不景気だが、介護職などは人材を必要としているのではないか」と話すと、男性は血相を変えて言った。「万一、私の不手際で高齢者が死んだら責任をとれない。ずっと自動車の生産ラインに立ってきたため、機械的に決められた作業を繰り返すことしかできない」。自分の発言の安易さと、男性の失われた時間の重…

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大久保渉

毎日新聞経済部記者

 1979年、ブラジル生まれ。2004年、京都大学総合人間学部卒、毎日新聞社入社。山形支局を経て09年から東京本社経済部。自動車などの民間企業、日銀、証券業界、金融庁、経済産業省、財務省を担当。15年から2年間は政治部で自民党などを担当した。19年5月から日銀、証券、金融庁を束ねる金融グループのキャップ。