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「がん手術後に復帰」50代社員を支えた職場と制度

佐藤乃理子・産業医・労働衛生コンサルタント
 
 

 従業員数約700人のサービス業を営む会社に勤める斉藤さん(仮名、50代男性)は先日、がんの手術のために短期入院しました(前回参照)。この会社の産業医を務める私は、退院から1週間がたったタイミングで斉藤さんと面談しました。今後、働けるかどうかを判断するためでした。

「迷惑をかけないか不安」

 斉藤さんについては、事前にこの会社の人事部長から相談を受け、普段は営業担当として外回りをしていることなどを聞いていました。斉藤さんはこの年の健康診断の結果、精密検査を受けるよう判定が出て、病院を受診したところ、初期のぼうこうがんと診断されました。

 面談に先立ち、斉藤さんには同意してもらった上で、私から主治医へ病状や今後の治療予定について問い合わせの書面を出し、返信をもらっていました。書面には、主治医が内視鏡で手術を行い、面談の日の翌週から追加治療として週1回、通院して薬物を注入する化学療法を計8回行うことが記載されていました。追加治療後も3カ月に1回、再発の有無を調べる精密検査が必要ということでした。

 斉藤さんは治療内容や今後の経過観察について十分に理解していました。また、手術と入院、自宅療養で2週間ほど休業していましたが、体力の低下は感じていませんで…

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産業医・労働衛生コンサルタント

2002年、藤田保健衛生大学医学部卒業。泌尿器科医として病院に勤務しながら、がん治療薬の基礎研究にあたった。10年に厚生労働省健康局へ出向して臓器移植関連の政策に従事し、13年に北里大学医学部に所属し、同大学病院の医療マネジメント、経営企画に参画。15年に日本医師会認定産業医となり、複数の企業の嘱託産業医を務めてきた。20年4月に労働衛生コンサルタントを取得し、幅広く働く人の健康や職場環境の管理に関する相談を受ける。また、東京都檜原村で労働環境やライフスタイルのあり方を提案する「檜原ライフスタイルラボ」の共同代表を務める。