
「実はコロナで父親を5月に亡くしまして」。8月上旬、京都市の会社員、中西由美子さん(36)と久しぶりに連絡を取ると、思いがけない答えが返ってきた。
中西さんの父親は2年前に脳梗塞(こうそく)を患い、右半身不随の生活となった。週2回のリハビリと週3回の透析がルーティンで、それ以外はほとんど家から出ることはなかった。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、全国に緊急事態宣言が出されていた4月下旬、父親はひどくせき込み、高熱も出た。
透析で通っていた病院に勧められ、PCR検査を受けると、結果は陽性だった。感染経路は不明だったが、医師に「上半身全てがウイルスに侵されている」と言われ、見る見るうちに症状は悪化した。体力が落ち、中西さんの母親(60)に「(スプーンを)持つのがしんどいから食べさせてくれへんか」と語っていたという。
入院3週間、なすすべなく
入院生活は3週間に及び、5月下旬に新型コロナに起因した肺炎で亡くなった。74歳だった。入院してからは面会謝絶となり、亡くなるまで一度も会えなかった。「どう見ても体力がある感じではなかったから……」。中西さんは唇をかむ。
新型コロナ感染者の近くにいた可能性を知らせる政府のスマートフォン向け接触確認アプリ「COCOA(ココア)」を中西さんがダウンロードしたのは、6月下旬。父を亡くし落ち込んでいた頃、アプリに関するテレビCMを見た母親から「入れなさい」と勧められた。
このアプリは、ダウンロードした人同士の接触がスマホに記録され、その中に感染者が…
この記事は有料記事です。
残り755文字(全文1403文字)
後藤豪
毎日新聞経済部記者
1981年、東京都生まれ。明治大学商学部卒業後、2005年毎日新聞社入社。青森支局、大阪社会部、神戸支局、甲府支局、東京社会部を経て、18年10月から東京経済部。生損保や証券業界のほか、ソフトバンクグループや楽天などIT企業を担当した。20年4月から総務省担当として情報通信や郵政行政などを担当し、デジタル庁創設に向けた動きも追っている。