ベストセラーを歩く

芥川賞「破局」勝ち組男子の空っぽな心と2人の女性

重里徹也・文芸評論家、聖徳大教授
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芥川賞に選ばれた遠野遥さん=東京都内で2020年7月15日午後、屋代尚則撮影
芥川賞に選ばれた遠野遥さん=東京都内で2020年7月15日午後、屋代尚則撮影

 現代の若者が心に抱いている虚無感とはどういうものなのだろうか。芥川賞を受賞した遠野遥「破局」(河出書房新社)を読みながら、そんなことを考えた。

 遠野は1991年、神奈川県藤沢市生まれ。慶応大法学部卒。昨年、文芸賞(季刊誌「文芸」が主催している公募の新人賞)を受賞してデビュー。今作が2作目になる。平成生まれの初めての芥川賞受賞で、決定時の若くして落ち着いた態度や長身のさわやかなスーツ姿も、話題になっている。

 主人公は慶応大学とおぼしき大学の4年生。公務員試験をめざして勉強している。そして、出身高校のラグビー部の指導や筋力トレーニングに日々を過ごしている。

 彼をめぐる女性が2人登場する。どちらも彼と同じ大学に通っている。政治家をめざしている同級生の女性は幼いころからの知り合いだ。ただ、彼女は自分のキャリアアップに懸命でなかなかデートをする時間もない。

 もう一人は商学部の新入生。小柄で料理が得意だ。彼女は異様なほどにセックスが好きなことがわかり、主人公の性器に向かって話しかける癖も見せる。主…

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重里徹也

文芸評論家、聖徳大教授

1957年、大阪市生まれ。大阪外国語大(現・大阪大外国語学部)ロシア語学科卒。82年、毎日新聞に入社。東京本社学芸部長、論説委員などを歴任。2015年春から聖徳大教授。著書に「文学館への旅」(毎日新聞社)、共著に「村上春樹で世界を読む」(祥伝社) などがある。