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コロナも理由?「ESG」テーマに“3800億円ファンド”

エコノミスト編集部
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 新たなビジネスチャンスを生みつつある「気候変動」対策。国内投信市場で4000億円の巨大ファンドも誕生し、次なる「成長株」探しが加速する。週刊エコノミスト9月15日号の巻頭特集「沸騰! 脱炭素マネー」より、その最新事情をお届けする。【エコノミスト編集部・岡田英/加藤結花】

世界的な脱炭素化の流れ

 「0の数が一つ違うかと思った」。アセットマネジメントOneが7月20日に運用開始したファンド「未来の世界(ESG)」が、当初設定額としては国内投信市場で歴代2位の3832億円を集めた。2000年の野村アセットマネジメント「ノムラ日本株戦略ファンド」以来20年ぶりの多額のマネーが集まったことに、アセットマネジメントOne戦略運用本部の滝口圭介氏も驚きを隠さない。

 同ファンドは、企業が長期的に継続して利益を上げられる成長力に加え、ESG(環境・社会・企業統治)の観点から企業を3段階で評価して銘柄選定や組み入れ比率を調整している。

 7月末時点で、組み入れ銘柄の約7割は米国株で、上位銘柄には、米IT大手のアマゾン・ドット・コム、中国オンライン教育大手のTALエデュケーション・グループなど成長株が並ぶ。プラスチックの代替としてリサイクルの容易さで需要が再び高まりつつあるアルミ製品の開発メーカーや、商業施設向けに節水機能を高める水処理メーカーといった環境分野での取り組みから成長が見込める銘柄も組み込まれている。

 
 

 近年まれに見る金額が集まったのはなぜか。販売するみずほ証券の飛田幸宣・商品企画部長は「これまで運用実績が良かった『未来の世界』シリーズであることも大きいが、コロナ禍で破綻が相次ぐ中で企業の持続可能性への注目度が高まった」と見る。顧客は個人投資家が中心だが、金融機関などの法人も顧客の約1割(金額ベース)と多く、1億円以上の約定(売買成立)が同証券販売分で358件にも上った(設定時)。飛田部長は「ESGを取り入れた運用戦略は長期的に高パフォーマンスに寄与するという考え方が受け入れられたのだろう」と話す。

 欧州連合(EU)が脱炭素化とコロナ禍からの経済復興を両立させる「グリーン・リカバリー」を掲げるなど、世界的に脱炭素化の流れが加速している。国際エネルギー機関(IEA)によると再生可能エネルギーや省エネ技術などへの脱炭素投資は2019年で6358億ドル(約67兆円)。20年はコロナ禍でエネルギー関連投資が縮小して脱炭素投資も一時的に減るものの5678億ドル(約60兆円)を見込み、全体に占める比率は上がると予想する。こうした中、脱炭素化の流れを成長に取り込む企業にマネーが集まっている。

「第2のテスラ」はどこに……

 米電気自動車(EV)メーカーのテスラの時価総額は7月、トヨタ自動車を抜いて業界トップに躍り出た。その後も差を広げ、時価総額は8月31日時点で約4643億ドル(約49兆円)と独走状態だ。市場では「第2のテスラ」を探す動きも過熱。新興の燃料電池トラックメーカーの米ニコラは6月の上場直後に株価が急騰し、量産前で売上高がゼロにもかかわらず、時価総額が一時、米自動車大手フォード・モーターを上回った。

 株価上昇が続く米IT大手も、脱炭素化に向けた野心的な目標を掲げ、ESGマネーをひきつける。

東京証券取引所=2020年5月7日、幾島健太郎撮影
東京証券取引所=2020年5月7日、幾島健太郎撮影

 米企業として初めて時価総額が2兆ドル(約210兆円)を突破した米アップルは7月、「2030年までにサプライチェーン(供給網)全体の温暖化ガス排出を実質ゼロにする」と宣言。自社での消費電力は既にすべて再生可能エネルギーでまかなっているが、サプライヤー(取引先)に対しても同様の取り組みを求めた。米マイクロソフトも、30年までに温暖化ガスの排出量を実質マイナスにする「カーボンネガティブ」を掲げ、脱炭素化につながる革新的な技術に投資する10億ドル(約1050億円)の基金も設けた。

ESG企業の株式パフォーマンスは高い

 機関投資家の間でも、脱炭素化への取り組みは投資先を見極める一つの指標になりつつある。

 「投資家は気候変動リスクを投資リスクと認識するようになった。近い将来、大規模な資本の再分配が起きるだろう」。世界最大の資産運用会社ブラックロックのラリー・フィンク会長は1月に出した書簡でこう述べ、投資先の選定で環境対策を重視する方針を打ち出した。火力発電に使う石炭の生産企業を投資対象から外したり、情報開示や取り組みが不十分な企業の経営陣に反対票を投じるとまで踏み込んだ。

 日本の運用大手の間でも、運用にESGを取り入れる動きは広がっている。野村アセットマネジメントは「長期的な企業価値向上につながる重要なベースライン」(津田昌直・専務執行役員)としてESGスコアを社内で作成し、銘柄評価に反映。2008年から国内株式の運用にESG評価を取り入れたニッセイアセットマネジメントの井口譲二・統括部長は「この10年超のESG評価の株式パフォーマンスは高い」と指摘。ESGの総合評価で最上位「1」の企業の20年3月末までの累積超過リターンは、08年12月比で60%以上伸びたのに対し、最低位評価「3」は40%以上下がったという。

 一方、ESGの評価項目は毎年見直しており、中でも気候変動問題については状況が一段と厳しくなることが予想されることなどから、昨年度は対象500社のうち18社で環境についての評価を引き下げ、うち一部で業績予想を引き下げて投資候補としての優先順位を下げた。

対策遅れで「企業淘汰」も

 環境対策が不十分な場合、投資対象から外されるケースも相次いでいる。実際、アバディーン・スタンダード・インベストメンツの荒川久志・運用部副部長は「海外の生産拠点に環境面での懸念があって、検討していた投資を断念したケースはいくつかある」と明かす。野村アセットマネジメントの山我哲平・シニアESGスペシャリストも、「企業側も、財務面に影響が出るのではないかと、非常に注視し始めている」と話す。

 銀行も、石炭関連など二酸化炭素(CO2)排出量の多い企業への融資を絞り始めた。仏BNPパリバは5月、石炭関連事業による収入が25%以上の顧客の新規受け入れをやめ、既存顧客でも石炭火力発電所を新設する企業とは近く取引停止すると表明。日本でも、みずほフィナンシャルグループが石炭火力向けの新規融資の停止を発表した。

 欧州を中心に世界で進む脱炭素投資の流れを成長に取り込む企業には、多額のマネーが集中する一方、消極的な企業は資金調達が困難になり、淘汰(とうた)が進むと見られる。脱炭素への対応によって企業が二極化しつつある。

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 この記事は、週刊エコノミスト9月15日号の巻頭特集「沸騰! 脱炭素マネー」の記事をウェブ用に編集したものです。連載「週刊エコノミスト・トップストーリー」は原則、毎週水曜日に掲載します。

週刊エコノミスト9月15日号

 
 

エコノミスト編集部

藤枝克治編集長率いる経済分野を中心として取材、編集するチーム。経済だけでなく社会、外交も含め幅広く取材する記者の集団であり、各界の専門家にコラムや情報提供を依頼する編集者の集団でもある。