産業医の現場カルテ

定年後再雇用を打診された社員「不安」を口にした事情

佐藤乃理子・産業医・労働衛生コンサルタント
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 産業医である私は先日、東京都内で複数の店舗を運営する従業員数約300人のスーパーの社員で、60歳の定年退職を間近に控えた関口さん(仮名、男性)の面談をしました。人事部からの依頼でした。関口さんは、会社から再雇用を打診されていましたが、健康面で気になることがあり、受けるべきかどうか悩んでいました。

 関口さんは勤続年数が長く、店長の経験もあり、現場の業務を一通りこなすことができます。再雇用について「家計としてはありがたいのですが、だんだん体力が落ちてきていると感じています。正直、働いてよいのかどうか迷っています」といいます。

 私は面談にあたって、同意を得た上で、事前に過去5年分の関口さんの健康診断の結果を確認していました。現在、高血圧の治療を受けていますが、状況は安定しており、働くこと自体に問題はないようでした。

 ただ、陳列や品出しで重いものを運ぶ作業が体にこたえるようになっており、長年抱えている腰痛も悪化しているといいます。また、店舗のバックヤードの薄暗いところで段差を見落としてつまずくことが時々あるそうです。「いつか大けがをしてしまいそうで、そうしたら会社にも迷惑をかけてしまうのではないかと……」と不安を口にしました。

 私は、まず関口さんに現在の自身の体力や体の状況を知ってもらうために、体…

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佐藤乃理子

産業医・労働衛生コンサルタント

2002年、藤田保健衛生大学医学部卒業。泌尿器科医として病院に勤務しながら、がん治療薬の基礎研究にあたった。10年に厚生労働省健康局へ出向して臓器移植関連の政策に従事し、13年に北里大学医学部に所属し、同大学病院の医療マネジメント、経営企画に参画。15年に日本医師会認定産業医となり、複数の企業の嘱託産業医を務めてきた。20年4月に労働衛生コンサルタントを取得し、幅広く働く人の健康や職場環境の管理に関する相談を受ける。また、東京都檜原村で労働環境やライフスタイルのあり方を提案する「檜原ライフスタイルラボ」の共同代表を務める。