ベストセラーを歩く

直木賞「少年と犬」孤独な人々と“守り神”の物語

重里徹也・文芸評論家、聖徳大教授
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 お盆に東京西郊の寺にお参りをした。愛犬たちの納骨をしていて、年に何度か訪れる。故郷から離れて暮らしていることもあって、父母の墓にはごぶさたしているのに、かつて一緒に過ごした犬の供養には、不思議と家族で足が向く。手を合わせて、元気だったころの姿を思い浮かべるうちに、リフレッシュした気持ちになる。

 直木賞を受賞した馳星周(はせ・せいしゅう)「少年と犬」(文芸春秋)を読みながら、私はそんなことを思い出していた。6編を収めた連作短編集。1頭の犬(シェパードが入ったミックスらしい)が東北から九州まで旅をする過程でめぐりあった人々との交流を描いている。といっても、単に心温まる、ほんわかした小説ではない。厳しくてつらい現実を突きつける物語だ。

 馳は1965年、北海道生まれ。横浜市立大卒。出版社勤務やミステリーなどの文芸評論家として活動した後、96年に「不夜城」で小説家デビュー。ペンネームの馳星周は香港出身の俳優、映画監督の周星馳にちなんでいる。

 新宿・歌舞伎町を舞台に中国人マフィアたちが抗争する「不夜城」は吉川英治文学新人賞(講談社が運営するエンターテインメント小説の登竜門)を受賞し、「このミステリーがすごい!」(宝島社)でも国内編1位に。ベストセラーになって注目された。

 以来、スピード感のある文体で描いたノワール小説(暗黒小説。犯罪に手を染める者たちを激しい暴力や非情な心理描写で描く)の旗手として人気を集めた。私は90年代末にインタビューをしたが、サングラスのコワモテに隠された知的な語り口や心配り、フランクな態度が印象的だった。

 何度も直木賞候補になったが、今回、7回目の候補で受賞。読者…

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重里徹也

文芸評論家、聖徳大教授

1957年、大阪市生まれ。大阪外国語大(現・大阪大外国語学部)ロシア語学科卒。82年、毎日新聞に入社。東京本社学芸部長、論説委員などを歴任。2015年春から聖徳大教授。著書に「文学館への旅」(毎日新聞社)、共著に「村上春樹で世界を読む」(祥伝社) などがある。