産業医の現場カルテ

50歳男性が脳梗塞から復帰できた「職場の包容力」

佐藤乃理子・産業医・労働衛生コンサルタント
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 千葉さん(仮名、50歳男性)は、従業員数約500人の運送会社で主にトラックの運転手を務めていました。1年半ほど前に脳梗塞(こうそく)を患って入院し、後遺症で左半身が動かない片まひの状態になりました。退院後は懸命にリハビリして日常生活はほぼ自分でできるようになり、半年ほどの休職を経て職場に復帰する前に、この会社の産業医を務める私と面談しました。

 会社は、運転手を長年堅実に務め、運行管理など内勤の経験もある千葉さんを信頼していました。私は面談で、千葉さん本人の希望を聞きながら、体の状態を確認することになりました。

 もともと千葉さんは体調管理に非常に気を使っていて、過重労働に当たるような状況にはありませんでした。まひはだいぶおさまったものの、当初は落ち込んでいたといいます。「人事部の人から『全く働けなくなるわけではない』と言われてリハビリをがんばりました。ただ、以前に比べて不自由になり、本当に会社に迷惑をかけず仕事ができるか不安です」と話しました。

 千葉さんは特に歩くスピードが遅くなったことを気にしているようで、「今日も会社に来るまでに多くの人に追い越され、気落ちしました」と言います。以前のように運転手として現場で働くのは難しい状況です。足を多少引きずるようにして歩くものの、平たんな場所は問題ない…

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佐藤乃理子

産業医・労働衛生コンサルタント

2002年、藤田保健衛生大学医学部卒業。泌尿器科医として病院に勤務しながら、がん治療薬の基礎研究にあたった。10年に厚生労働省健康局へ出向して臓器移植関連の政策に従事し、13年に北里大学医学部に所属し、同大学病院の医療マネジメント、経営企画に参画。15年に日本医師会認定産業医となり、複数の企業の嘱託産業医を務めてきた。20年4月に労働衛生コンサルタントを取得し、幅広く働く人の健康や職場環境の管理に関する相談を受ける。また、東京都檜原村で労働環境やライフスタイルのあり方を提案する「檜原ライフスタイルラボ」の共同代表を務める。