
外食大手コロワイドが定食チェーンを展開する大戸屋ホールディングス(HD)に仕掛けた敵対的買収は、株式の公開買い付け(TOB)が成立しコロワイド側に軍配が上がった。折しも人気テレビドラマ「半沢直樹」で敵対的買収が題材になったこともあり、インターネット上では「リアル半沢直樹だ」とも騒がれ注目が集まった。だが、現実の買収劇の取材を通じて目の当たりにしたのは、資本の論理に翻弄(ほんろう)される従業員の悲哀だった。
社風の違い明白
「今は不安でいっぱいです……」。TOB期限だった9月8日、成立の見通しが伝わると、ある大戸屋社員は小さな声でそうつぶやいた。手間や時間がかかる店内調理を売りに定食に徹してきた大戸屋と、合理化を徹底するコロワイド。社風の違いは明白で、大戸屋では社員の退職が相次ぎ、社内の空気は重いという。
一連の買収劇では、大戸屋側はコロワイドに激しく反発し独立経営を死守しようとした。窪田健一社長は、6月の大戸屋の株主総会でコロワイドが役員刷新の議案を提出した際など複数回記者会見を開き、コロワイドの提案を「強圧的なやり方だ」と声を荒らげて批判した。私は4月から民間企業などの担当になったが、上場企業のトップが公の場で感情的な言葉を繰り出すことに正直驚いた。
有効な対抗策打てず
だが、大戸屋の経営陣が有効な対抗策を取ってきたかは疑問が残る。今回の騒動の背景には、2015年に実質的創業者の三森久実氏が死去した後に起きた「お家騒動」がある。現経営陣と三森氏の長男、智仁氏が対立。智仁氏は大量の株を保有したまま退社したが、現経営陣は和解して株を買い取るなど手を打たず、コロワイドへの株売…
この記事は有料記事です。
残り1207文字(全文1903文字)
町野幸
毎日新聞経済部記者
1983年東京都生まれ。民放テレビ局記者などを経験後、2017年毎日新聞社入社。千葉支局を経て、20年4月から東京本社経済部で流通業界を担当。外食産業や小売りなどを取材している。