
金融庁の金融審議会が2019年6月に公表した報告書が「老後2000万円」問題として大反響を呼んだのは記憶に新しい。今夏、その「続編」となる報告書が公表された。メディアがほとんど取り上げず、話題にならなかったが、高齢化社会での「お金との向き合い方」を考える重要な指摘は多い。改めてポイントを確認したい。
「老後2000万円問題」の本質は
まず、昨年の「老後2000万円」報告書の中身をみよう。作成したのは金融審議会の市場ワーキンググループ(WG)。「高齢社会における資産形成・管理」という副題のついた報告書のポイントは3点からなる。
まず(1)公的年金は老後生活を支える大きな柱だが、現状、高齢夫婦は貯蓄を月平均約5万円取り崩しており、「人生100年」時代となると約2000万円不足する計算となる。そのため(2)個人型確定拠出年金(イデコ)などを活用して現役時代から長期的視野で資産形成を行うことが大切だ。そこで(3)金融機関は「顧客本位」ビジネスで適切にそれを支援する役目がある。
重要なのは(2)(3)だった。だが、その前提となる(1)の「2000万円」ばかりがクローズアップされ、重要な指摘がほとんど伝わらなかった。報告書は政治問題化し、麻生太郎金融担当相が受け取りを拒否したため、事実上撤回された。
だが、市場WGはその後7回の審議を続け、20年8月に「続編」となる報告書を公表した。副題に「顧客本位の業務運営進展に向けて」とある通り、国民の資産形成のために金融機関は「顧客本位」で取り組んでいるのか、取り組むようにするにはどうしたらいいか、という点にある。つまり、撤回された報告書の本質を…
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渡辺精一
経済プレミア編集部
1963年生まれ。一橋大学社会学部卒、86年毎日新聞社入社。大阪社会部・経済部、エコノミスト編集次長、川崎支局長などを経て、2014年から生活報道部で生活経済専門記者。18年4月から現職。ファイナンシャルプランナー資格(CFP認定者、1級FP技能士)も保有。