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新入社員が「重い悩みを連日相談」重圧を感じた先輩は

舟木彩乃・産業心理コンサルタント・カウンセラー
 
 

 近藤さん(仮名、女性20代後半)は広告代理店の法人営業部1課で働き、課員は15人です。成績優秀で後輩の面倒見がよい近藤さんは、同課に配属された新人Aさん(女性20代前半)の教育担当を任されました。

 Aさんは、ハキハキとした性格で、課長や先輩から「期待しているよ」などとよく声をかけられていました。近藤さんも当初は、教育担当として張り切っていました。

複雑な家庭環境を話し出す

 しかし、10カ月ほどたったころ、近藤さんはAさんのことで疲れを感じるようになりました。理由は、Aさんの悩みごとを聞く機会が増え、「たまに死にたいと思うことがある」などと打ち明けられるようになったからです。

 職場での具体的な悩みはないということでしたが、仕事が終わるとAさんから「少し仕事のことを話したくて、これからお時間ありますか」と聞かれ、多いときは週に2~3回、一緒に食事をして帰っていました。頼られてうれしい気持ちもありましたが、重圧を感じて複雑な心境になりました。

 しかし、食事での話は仕事のことよりもプライベートな悩みが多く、アルコールが入ると不遇だった子ども時代の話を始めたりもしました。複雑な家庭環境に育ち、誰からも大事にされず、今でも「自分は存在価値がない」という思いから抜けられないということでした。「誰にも言わないでくださいね」と学生時代のリストカットの傷痕を見せられたこともあったそうです。

 そんなとき、Aさんが取引先に違う企業の見積書を送るミスを犯してしまい、Aさんは課長から注意を受けました。それ以降、元気がなく仕事への意欲も低下していく様子で、一緒の食事のときも飲酒量が多くなり「自殺」まで口…

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産業心理コンサルタント・カウンセラー

 筑波大学大学院博士課程修了(ヒューマン・ケア科学博士)。一般企業の人事部などを経て、現在メンタルシンクタンク(筑波大学発ベンチャー企業)副社長。金融庁職員のメンタルヘルス対策にも従事する。国家資格として公認心理師、精神保健福祉士、第1種衛生管理者、キャリアコンサルタントなど保有。著書に「『首尾一貫感覚』で心を強くする」(小学館新書)。